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 刹那、ふたつの光景を目の当たりにすることになる。
 ひとつは、今にも源太郎丸が破落戸に匕首をふりおろされようとしているところだ。
 そしてもう一方は、三間ほど向こうで平次郎が破落戸を相手に渡り合っている場面だった。今なら、隙を突いて平次郎を倒すことも可能だと平太は思う。自分は奥義の光陰すらも実戦のなかで習得したのだ。
 しかし、そのためには源太郎丸を見殺しにしなければならない。
 混沌とした状況だ。御庭番の平次郎は、状況に見切りをつけこの場を次の瞬間には去っているかもしれない。源太郎丸を助けたあとでは、確実に平次郎を仕留められるか定かではなかった。
 全力で動いているはずだというのに、微風に舞う羽毛のごとく自分の動きが緩慢に思える。同時に、見えない巨大な手で二方向に引っ張られているような心地がした。
 この地点で動きを修正しなければ平次郎には届かない、そんな場所に平太は到達する。
 次の瞬間、その耳に犬の鳴き声が聞こえた。それは昔、川で溺れたときと同じ鳴き声に感じられた。
 この莫迦――そんな言葉が脳裏で意味をなす。
 刹那、平太は源太郎丸を今にも殺害せんとする破落戸を距離を詰め剣を一閃していた。
 周囲を確認する。平次郎との攻防に頭数を裂いたらしく、他に源太郎丸に襲いかかる人影はひとまず見当たらない。
 が、
「消えた」
 平次郎の姿もまた見えなくなっていた。
 平太の手練れぶりのせいか、あるいは単にもはや頃合いと考えたか。どちらにしろ、
 憎き相手はこの場から去った――。
 そのことに変わりない。
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