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「おめえは自分の命はいらねえなんてふるまいを見せるがな、知る辺(べ)にとってもそうだなんて思ってやがるのか」
 もうひとりの武士を相手取りながらも千太郎は言葉をかさねる。
「おめえが源の字に対して抱いたのと同じ感情(もん)をまわりの者(もん)も抱いてんだよ」
 千太郎のせりふに又一郎は胸を衝かれた。
 確かに言われてみればその通りだった――家中の争いから刺客となった千太郎の兄を斬り、出奔して親分に拾われて今に至る。
 無宿人だからこそやれることがあるという周太の教えを口では唱えながらも、もはや自分の命には価値がないと心の奥底では思っていた。だからこそ、自分は平太に対して妙に入れ込むところがったのだ。
 けれども、あの平太もまた旅のなかでどこか“変化”を遂げているように思える。それに源太郎丸は最初は修羅場に接するとちびっていたが、今は堂々としたものだ、と視野の端の彼を見て思った。
 だというのに、年嵩で経験も豊富な自分が変わらぬままであるとうのは、
 考えてみると情けねえじゃねーか――。
 又一郎の口もとに苦笑が浮かんだ。ここに至り、やっと自分が無意識のうちに逃げていた重石を受け入れた決して軽くはない。だが、独りでない状況でなら背負えないものでもなかった。
 千太郎が命をかけて総身で訴えてくれたおかげだ。おまえはひとりじゃない、と。支えてやる、と。
「この生業のお陰で、国元の妹には前よりもましな暮らしをさせられてるんだ、おめえが気に病む必要なんてもうひとつもねーんだよ」
「合点承知だ」
 千太郎の声に、又一郎は威勢よく応じた。そして、驟雨となって降り注ぐ敵の刃を躱し、受けて、反撃を加えた。
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