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    二

 薄明のなか、山中の獣道に近い場所を歩きながら、最後尾の又一郎は一列になって前のほうを進む平太へと視線を向けていた。
 歩みに隙がない――先頭を進む千太郎と比べても遜色がない、と吉兵衛をはさんだ肩越しに見ていても把握できる。無駄な力みがなくなったためだ。たんなる無頼ではなく、兵法者としての身体操作を身につけたために足場が悪くとも平太の足取りは安定していた。それは衰弱した江戸詰家老内記に肩を貸していても変わりない。
『あいつが妙に力んじまうのは、婆さまがなにかっちゃあぶっていたからだ』
 ために、せっかく親戚のもとに兵法を習いに行っても、目付に開眼しても身体操作のほうは身につかないままだった、と周太に聞いている。
 だが、今の平太は別人だった。この旅のなかに急激な変化を遂げたのだ。
 それは又一郎に目を見張る思いを抱かせていた。
 人間などそうそう変われるものではない。それは世の中の真理のひとつだ。が、そうでない者が確かにいることを平太は証明している。
 千太郎の言葉が又一郎の脳裏によみがえった。
 過去に囚われている、そういう自分を平太に見い出している、そんなようなことを言われたのだ。
 今になるとそれが事実だと認めざるを得ない。
 歳下の平太に対し、又一郎はなさけないことに置いてきぼりにされたような心地をおぼえていた。
 償いは言い訳、落としどころが見つけられてねえだけ、か――。
 千太郎が自分を許していることに嘘はないだろう。あとは又一郎が罪を犯した、その“痛み”を真に受け入れるだけなのだ。ふいにそんなことに彼は気づく。
 それがたやすくできるってんなら、無宿になんぞなってやいねえさ――又一郎はひそかにため息をついた。
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