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「いかなる事由で詫びなどもうされる、若様」
これに吉兵衛はうろたえたようすでこたえた。短い旅ではあるが、修羅場を間近にしてきた源太郎丸はどこか急激に大人びており、それと比べるとあべこべな印象を与える反応だ。
「仲のいい仁とおいらのせいで切り結ばなきゃなんないんだろう?」
「その儀にござりまするか」
源太郎のかさねたせりふに吉兵衛が得心のいった表情でうなずく。そして、次の瞬間感極まった表情を浮かべた。
「これまでそれがしは、御家老のお下知であること、みずからの信じる武士道にのっとり若様をお守りいたしてござった」「今は違うのかい?」
千太郎の問いかけに、さよう、と吉兵衛は首肯する。その目は涙にうるんで泣き出す寸前だった。
「拙者はただいまの若様の言葉をもって、若様ご自身の人柄に惚れ込みましてござる。ゆえにそれがしが向後、若様をお守りいたすのはみずからがさようにいたしたいという存念のためでござる。それゆえ、若様が心苦しゅう思召すことはござりませぬ」
感情の高ぶりに合わせ声も大きくなっていた。
だが、ついに吉兵衛が泣き出すことはない。旅のなかで源太郎丸同様、彼もまた変化を見せていた。
その日の深更、自然と平太は目を覚ました。闇の中に、みっつの双眸が光を放つのが視界に入る。源太郎丸以外の面々が覚醒したのだ。
身ぶりで「準備をしろ」と又一郎がつたえてくる。
これに吉兵衛はうろたえたようすでこたえた。短い旅ではあるが、修羅場を間近にしてきた源太郎丸はどこか急激に大人びており、それと比べるとあべこべな印象を与える反応だ。
「仲のいい仁とおいらのせいで切り結ばなきゃなんないんだろう?」
「その儀にござりまするか」
源太郎のかさねたせりふに吉兵衛が得心のいった表情でうなずく。そして、次の瞬間感極まった表情を浮かべた。
「これまでそれがしは、御家老のお下知であること、みずからの信じる武士道にのっとり若様をお守りいたしてござった」「今は違うのかい?」
千太郎の問いかけに、さよう、と吉兵衛は首肯する。その目は涙にうるんで泣き出す寸前だった。
「拙者はただいまの若様の言葉をもって、若様ご自身の人柄に惚れ込みましてござる。ゆえにそれがしが向後、若様をお守りいたすのはみずからがさようにいたしたいという存念のためでござる。それゆえ、若様が心苦しゅう思召すことはござりませぬ」
感情の高ぶりに合わせ声も大きくなっていた。
だが、ついに吉兵衛が泣き出すことはない。旅のなかで源太郎丸同様、彼もまた変化を見せていた。
その日の深更、自然と平太は目を覚ました。闇の中に、みっつの双眸が光を放つのが視界に入る。源太郎丸以外の面々が覚醒したのだ。
身ぶりで「準備をしろ」と又一郎がつたえてくる。
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