125 / 159
124
しおりを挟む
第三章
一
夕闇のなか、平太たちはひとつの小原の宿場町についた。又一郎、平太、吉兵衛、千太郎の準でここまで背負ってきたのだ。側らには疲れきったようすの源太郎丸の姿が寄り添っている。
だが、彼以上に今現在、平太の肩を借りている八代家江戸詰家老吉田内記は疲労の色が濃い。というより憔悴していた。ここまで順繰りで肩を借りることでなんとか進んできた有様だ。拐(かどわか)された折の衰弱がいまだに残っている。
平太たちは町を通り過ぎ、ひと気のない場所へと足を向けた。荒れ堂だ。だが、ここに泊まることにある意味、支障はない。紋が同道していないためだ。
理由は、彼女が“裏切り者”だからだった。
先の戦いのあと、街道脇で一息ついたところで平太たちは紋に厳しい目線を向けた。
「なんなのさ、あんたたち?」「おめえさん、敵に通じているだろう?」
紋は戸惑った顔を見せる。又一郎が険しい顔で口を開いた。
「なにを証左にそんなことを――」
「乱世の武士でもあるめえに、破落戸どもが朝駆けの刻限にそろって起きてるわけがねえ」
紋の言葉を千太郎が低い声でさえぎる。
「それにな、鉄砲を持って敵が現れた方角、ぴったりと事前におめえさんに鉄砲を使う又一郎の兄貴が現れる“はず”だった場所とかさなる」
「はず、だった?」
平太のせりふに紋が柳眉をひそめた。
一
夕闇のなか、平太たちはひとつの小原の宿場町についた。又一郎、平太、吉兵衛、千太郎の準でここまで背負ってきたのだ。側らには疲れきったようすの源太郎丸の姿が寄り添っている。
だが、彼以上に今現在、平太の肩を借りている八代家江戸詰家老吉田内記は疲労の色が濃い。というより憔悴していた。ここまで順繰りで肩を借りることでなんとか進んできた有様だ。拐(かどわか)された折の衰弱がいまだに残っている。
平太たちは町を通り過ぎ、ひと気のない場所へと足を向けた。荒れ堂だ。だが、ここに泊まることにある意味、支障はない。紋が同道していないためだ。
理由は、彼女が“裏切り者”だからだった。
先の戦いのあと、街道脇で一息ついたところで平太たちは紋に厳しい目線を向けた。
「なんなのさ、あんたたち?」「おめえさん、敵に通じているだろう?」
紋は戸惑った顔を見せる。又一郎が険しい顔で口を開いた。
「なにを証左にそんなことを――」
「乱世の武士でもあるめえに、破落戸どもが朝駆けの刻限にそろって起きてるわけがねえ」
紋の言葉を千太郎が低い声でさえぎる。
「それにな、鉄砲を持って敵が現れた方角、ぴったりと事前におめえさんに鉄砲を使う又一郎の兄貴が現れる“はず”だった場所とかさなる」
「はず、だった?」
平太のせりふに紋が柳眉をひそめた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)倭寇が明の女性(にょしょう)を犯した末に生まれた子供たちが存在した……
彼らは家族や集落の子供たちから虐(しいた)げられる辛い暮らしを送っていた。だが、兵法者の師を得たことで彼らの運命は変わる――悪童を蹴散らし、大人さえも恐れないようになる。
そして、師の疾走と漂流してきた倭寇との出会いなどを経て、彼らは日の本を目指すことを決める。武の極みを目指す、直刀(チータオ)の誓いのもと。

忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)藩の忍びだった小平治と仲間たち、彼らは江戸の裏長屋に住まう身となっていた。藩が改易にあい、食い扶持を求めて江戸に出たのだ。
が、それまで忍びとして生きていた者がそうそう次の仕事など見つけられるはずもない。
そんな小平治は、大店の主とひょんなことから懇意になり、藩の忍び一同で雇われて仕事をこなす忍びの口入れ屋を稼業とすることになる――

忍者同心 服部文蔵
大澤伝兵衛
歴史・時代
八代将軍徳川吉宗の時代、服部文蔵という武士がいた。
服部という名ではあるが有名な服部半蔵の血筋とは一切関係が無く、本人も忍者ではない。だが、とある事件での活躍で有名になり、江戸中から忍者と話題になり、評判を聞きつけた町奉行から同心として採用される事になる。
忍者同心の誕生である。
だが、忍者ではない文蔵が忍者と呼ばれる事を、伊賀、甲賀忍者の末裔たちが面白く思わず、事あるごとに文蔵に喧嘩を仕掛けて来る事に。
それに、江戸を騒がす数々の事件が起き、どうやら文蔵の過去と関りが……

大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
【完結】月よりきれい
悠井すみれ
歴史・時代
職人の若者・清吾は、吉原に売られた幼馴染を探している。登楼もせずに見世の内情を探ったことで袋叩きにあった彼は、美貌に加えて慈悲深いと評判の花魁・唐織に助けられる。
清吾の事情を聞いた唐織は、彼女の情人の振りをして吉原に入り込めば良い、と提案する。客の嫉妬を煽って通わせるため、形ばかりの恋人を置くのは唐織にとっても好都合なのだという。
純心な清吾にとっては、唐織の計算高さは遠い世界のもの──その、はずだった。
嘘を重ねる花魁と、幼馴染を探す一途な若者の交流と愛憎。愛よりも真実よりも美しいものとは。
第9回歴史・時代小説大賞参加作品です。楽しんでいただけましたら投票お願いいたします。
表紙画像はぱくたそ(www.pakutaso.com)より。かんたん表紙メーカー(https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html)で作成しました。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)猟師として生きている栄助。ありきたりな日常がいつまでも続くと思っていた。
だが、陣借り無宿というやくざ者たちの出入り――戦に、陣借りする一種の傭兵に従兄弟に誘われる。
その後、栄助は陣借り無宿のひとりとして従兄弟に付き従う。たどりついた宿場で陣借り無宿としての働き、その魔力に栄助は魅入られる。

【架空戦記】蒲生の忠
糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。
明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。
その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。
両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。
一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。
だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。
かくなる上は、戦うより他に道はなし。
信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる