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   第三章

   一

 夕闇のなか、平太たちはひとつの小原の宿場町についた。又一郎、平太、吉兵衛、千太郎の準でここまで背負ってきたのだ。側らには疲れきったようすの源太郎丸の姿が寄り添っている。
 だが、彼以上に今現在、平太の肩を借りている八代家江戸詰家老吉田内記は疲労の色が濃い。というより憔悴していた。ここまで順繰りで肩を借りることでなんとか進んできた有様だ。拐(かどわか)された折の衰弱がいまだに残っている。
 平太たちは町を通り過ぎ、ひと気のない場所へと足を向けた。荒れ堂だ。だが、ここに泊まることにある意味、支障はない。紋が同道していないためだ。
 理由は、彼女が“裏切り者”だからだった。

 先の戦いのあと、街道脇で一息ついたところで平太たちは紋に厳しい目線を向けた。
「なんなのさ、あんたたち?」「おめえさん、敵に通じているだろう?」
 紋は戸惑った顔を見せる。又一郎が険しい顔で口を開いた。
「なにを証左にそんなことを――」
「乱世の武士でもあるめえに、破落戸どもが朝駆けの刻限にそろって起きてるわけがねえ」
 紋の言葉を千太郎が低い声でさえぎる。
「それにな、鉄砲を持って敵が現れた方角、ぴったりと事前におめえさんに鉄砲を使う又一郎の兄貴が現れる“はず”だった場所とかさなる」
「はず、だった?」
 平太のせりふに紋が柳眉をひそめた。
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