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刻は平太と源太郎丸が名主の屋敷のなかへ姿を消したところにもどる。
頭上の剣と、敵の刃が交わった。巨木が猛然と倒れかかってきたような錯覚を吉兵衛はおぼえる。
これが人の放つ一撃だというのか――総身に鳥肌が立った。
交錯は一瞬のことだ。吉兵衛の身体の前面からななめへ剛剣はそれて流れる。が、受け流した、と思ったときには吉兵衛の大刀には罅が入っていた。
敵が大地を割る勢いでふり下ろした剣尖をひるがえし、逆袈裟に斬りあげる。
それより早く、吉兵衛は敵と距離を置いていた。だが、わずかにではあるが脇腹を斬られている。痛みが脇で小さく弾けているのだ。
「おいの一撃を受け流すとは、すごか剣技でごわすな」
敵、野暮ったい顔立ちをした浪人が剽軽な表情を見せてふたたび剣を独特な大上段にとる。
「おいは薩州浪人、村山又三でごわす。薬丸自顕流を使いもす」
「家中の名は明かせぬが、それがしは山木吉兵衛。立身流兵法を遣う」
相手の名乗りに吉兵衛は息を必死にととのえながら応じた。ここで口を閉ざせば“呑まれる”と思ったのだ。大事なのは事実ではない、どう感じるかどうかだった。脇差を右手抜き、左手をみずからの帯に当てる。
「立身流、聞かぬ流儀でごわすな」
又三はすこし首をかしげ、「まあ細かかことはよか。良き遣い手と出会えたこつが肝要でごわす」とつぶやいた。
とたん、その総身から鬼気がわく。そう錯覚させるほどの剣気が放射された。
身を躱す、それより早く又三の剣がふりおろされる。そうなったかと思ったが、なんとか回避できた。
が、跳ね上がる一閃がくり出されるまでに攻撃に移ることができない。
刻は平太と源太郎丸が名主の屋敷のなかへ姿を消したところにもどる。
頭上の剣と、敵の刃が交わった。巨木が猛然と倒れかかってきたような錯覚を吉兵衛はおぼえる。
これが人の放つ一撃だというのか――総身に鳥肌が立った。
交錯は一瞬のことだ。吉兵衛の身体の前面からななめへ剛剣はそれて流れる。が、受け流した、と思ったときには吉兵衛の大刀には罅が入っていた。
敵が大地を割る勢いでふり下ろした剣尖をひるがえし、逆袈裟に斬りあげる。
それより早く、吉兵衛は敵と距離を置いていた。だが、わずかにではあるが脇腹を斬られている。痛みが脇で小さく弾けているのだ。
「おいの一撃を受け流すとは、すごか剣技でごわすな」
敵、野暮ったい顔立ちをした浪人が剽軽な表情を見せてふたたび剣を独特な大上段にとる。
「おいは薩州浪人、村山又三でごわす。薬丸自顕流を使いもす」
「家中の名は明かせぬが、それがしは山木吉兵衛。立身流兵法を遣う」
相手の名乗りに吉兵衛は息を必死にととのえながら応じた。ここで口を閉ざせば“呑まれる”と思ったのだ。大事なのは事実ではない、どう感じるかどうかだった。脇差を右手抜き、左手をみずからの帯に当てる。
「立身流、聞かぬ流儀でごわすな」
又三はすこし首をかしげ、「まあ細かかことはよか。良き遣い手と出会えたこつが肝要でごわす」とつぶやいた。
とたん、その総身から鬼気がわく。そう錯覚させるほどの剣気が放射された。
身を躱す、それより早く又三の剣がふりおろされる。そうなったかと思ったが、なんとか回避できた。
が、跳ね上がる一閃がくり出されるまでに攻撃に移ることができない。
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