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「随分と淋しい考えかただな」
「うぬも元は武士ならわかるだろう。無宿となれば遺すものはなにもない、侍であったころのような気概なぞ持つだけ虚しいというものだ」
「そうかね」
 自分が元は武士であることを見抜かれても別段おどろきもせず又一郎は片眉をあげる。
「違うというのか」
「人の記憶のなかには残るさ。よくも悪くもな」
「くだらん」
 又一郎の返答に重左エ門は片方の唇をつりあげた。とたん、彼の持つ槍の穂先が電光と化して動く。
 喉首を狙った一撃を又一郎は大刀を掲げて防いだ。
 が、付け入る隙を与えぬためか重左エ門は息つく暇もない猛攻を浴びせてくる。
 仕方なく又一郎は攻撃を捌きながら“逃げた”。ほおや肩口を槍がかすめて傷が開くが顔をしかめる余裕もない。
 転瞬、重左エ門の目が驚愕に見開かれた。みずからの移動がふいに妨げられたことにおどろいたのだ。
 その原因は、彼の股の間に弾かれた一本の槍にある。
 又一郎は攻撃を避けながらも、息絶えたやくざ者のひとりが手放した槍へと実は近づいていたのだ。そして機が来るや、それを足で蹴飛ばして重左エ門の足もとへと移動させたのだ。
 もっとも視界に入りにくい位置からの奇手に、重左エ門は見事に引っかかった。
 それでも迅雷の速度で槍をふるい石突をくり出したのは流石だろう。が、それを抑え次の一撃が来るよりも早く又一郎は大刀を一閃していた。
「ああ、やっとか」
 倒れながら重左エ門の発したせりふはどこか安堵するような響きを帯びていた。
 そんな彼を又一郎はわずかな間だが、複雑な顔で見下ろす。
 あっしはまだ死ねねえのさ――“罪”を償うために。
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