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 千太郎の合流後、日が昇る前に平太たちは寺を発って、依頼主が囚われているというとある村の名主の屋敷を望む小高い丘に陣取った。巣にもどっていくところか、夜烏(夜鷺)が頭上を横切っていく。
 又一郎は平太らとは屋敷をはさんで反対の森の中に潜んだ。
 相手は名主といっても、実態はやくざ者だ。だから、遠慮する気は毛頭ない。不寝番をしているらしい灯りが屋敷を囲むように四方にともっていた。よく目を凝らすと、時折人間が身じろぎするのが視界に入る。
 彼の側らには杯を噛ませた牛の姿がある。本来の主からはなれ、しかも不穏な気配を感じているのかどこか不安げにしきりにあたりをうかがっている。
 と、犬が吠える声が聞こえてきた。これは猿という名の桃と雉の兄弟の鳴き声だ。
 実は、加勢に向かうようにと知らせを受けた渡世人がひとり、遅れた形で合流してきたのだ。それを連れてきたのが、周太が買う忍び犬の一匹、賢猿だった。桃の匂いを追って、渡世人の千太郎を案内してきた。
 千太郎か、と顔を合わせた瞬間、胸のうちで又一郎は複雑な声をあげたものだが、他方で心強くもあった。
「合図があった、お前の出番だ」
 又一郎は藁に火をつけて、牛の尾へとくくりつける。百姓から金子を払って譲り受けたものだが、“このため”に使うのはどこかもったいない気もした。
「まあ、命あっての物種だ」
 又一郎のひょうげた声とは対照的に、牛は猛り狂う。火の熱に恐怖し、大地を蹄で怒涛の勢いで蹴った。
 結果、牛は猛然と屋敷のほうへと突っ込んでいくことになる。
 異常を察知したのか、灯りがいくつかこちらへと集まりつつあった。
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