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   六

 夜明け前に加勢が自分たちの一行に加わり、又一郎は内心安堵した。自分が命を賭けるのはともかく、余人が危険にさらされることを彼は好まないのだ。
 だが、合流した相手が又一郎にしてみれば問題だった。
 平太との顔合わせもそこそこに、「すこし野暮な話があるから借りるぜ」といって工藤千太郎は童顔に怒りを露わにし又一郎を物陰に引き込んだのだ。小さな身体のどこにそんな力があるのが又一郎の抵抗を許さなかった。
 怪訝な平太と、呆気にとられた吉兵衛、紋、源太郎丸に見送られるのはどことなく居たたまれない。
「おめえさん、またむちゃをやらかす肚づもりだったな?」
「この稼業、むちゃは付きもんだろう」
 人目が絶えるなり千太郎は下から又一郎をにらみつけた。又一郎の上背があるせいでよけいに千太郎の背の低さが強調されている。おかげで顔や視線を足もとに落として目線をのがすこともできず、又一郎は気まずい気分を味わった。
「てめえの命を度外視してのむちゃは侠気なんぞじゃなく、無謀っていうんだよ」
「むずかしすぎて、あっしには違いがわかんねえや」
 又一郎がおどけてみせたとたん、千太郎は舌打ちをもらす。
「未だに償いがどうのって存念でこの渡世人飛脚つづけてんのか?」
 まっすぐに切り込んでくる千太郎に、又一郎は思わず黙り込んだ。
「親爺は死んじまったがな、親分の都合してくれた金子のお陰で母上と千鶴の生計は十二分に賄えたんだ。貧乏侍の家なんぞ、のちの世につたえたところでなんになるってんだ」
「おぬしの父を殺めたのおれだ」
 まるで病死したかのように父のことを語る千太郎に、又一郎は思わず口を開いていた。感情の昂ぶりで口調が侍のときにすこしもどる。ちなみに千鶴というのは千太郎の妹だ。つまり、又一郎は三人の人間から肉親を奪ったのだ。
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