渡世人飛脚旅(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

９８

　　　五

　それから、平太たちは場所を移した。追手が周辺を探った場合に無関係な百姓を巻き込む恐れがあったためだ。百姓の旦那から間道を教えてもらい、すこし人里離れた場所にある檀那寺へと向かった。
　人のいい顔をした肥満体の住職は百姓の紹介だと告げた上で金子を握らせると、快く承諾してくれた。これで断られると子どもを野宿させることになるため内心危ぶんでいただけに安堵した。
　源太郎丸が厠に行きたいというため、念のために平太がついて行く。
「あんたら、兄弟みたいだね」
　とこちらを見送る紋は笑った。
　あっしじゃあ、父親には貫禄不足か――父になるのもいい、とつい先日考えたばかりのために苦笑が平太の口もとに浮かんだ。
　厠で放尿を始めたところで源太郎丸がふいに真剣な顔でこちらを見上げる。
「おいらさ、兄ちゃんのお陰で勇気が持てたんだ」
「なんだい、藪から棒に」
　困惑気味に平太は彼を見返した。
「おいらが、あの修羅場で雁殺しを使えたのは兄ちゃんのお陰だったんだ」
　ここまで告げたところで源太郎丸は顔を伏せる。