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 渡世の仁義を持ち出されれば、平太としてもそれ以上の反論の言葉を持ちえない。そもそも、人の道にもとる行為だ。それは数少ない、時代や場所が変わっても不変の真理だろう。
 それから、又一郎はひとりで村の中央に向かって歩み去って行った。平太は村の外縁に残って源太郎丸をいざというときに守り逃げ延びることだ。
 だが、実をいえば彼自身も又一郎とともに行動したいという思いがある。
 もし、親父がここにいるのなら――今度こそ仕留めたかった。吉兵衛の手を借りても攻撃を防ぐことで精いっぱいの平太にあの御庭番を討てるはずはないが、そこはやはり感情が先行している。
 それでも猛る自分を抑えて平太はこの場に残ったのだ。
 ただ、不穏な気配が体の外に漏れ出ていたのだろう、
「兄ちゃん」
 とふいに源太郎丸が話しかけてきた。こんなときになんだ、と平太顔を向けると、
「おいらなら大丈夫、荷物にはならねえ」
 と言葉をかさねる。
 唐突なせりふに平太は一瞬、こういうときに人が口にする定型句の類かと考えた。が、脳裏にひらめくものがある。
「おめえ、まさか兄貴との“話”を聞いてたのか?」
「うん、ちょうど眠りが浅くなってたのさ」
 平太の問いかけを源太郎丸はあごを引いて肯定した。そのまなざしは真剣なもので、彼の意気込みをあらわしている。ったく、と平太は肩から力が抜けるのを感じた。こんなふうに人を気づかえる子どもを危険に遭わせられるわけがない。
「莫迦野郎、斬った張ったを目にしてちびった奴が大口叩くんじゃねえ」
「ち、ちびったっていっても少しだけだい」
 乱暴に頭を撫でる平太に源太郎丸は顔を赤くして抗議した。
「とかいっても、おっ母(か)あの胸乳(むなぢ)が恋しいんじゃあねえのかい」
「なんだよ、人が気を使ってやってんのに子ども扱いして」
 自分をにらむ源太郎丸と平太は視線を合わせる。
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