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 理不尽に源太郎丸の命を奪う者にたち対し平太は話を聞いたときに義憤をおぼえたのだ。だったら、自分の事情で源太郎丸を投げ出す真似をすればそういう連中と同じになるのではないかという懊悩を抱いている。
「兄貴はどうして、この稼業に身をやつしておられるんで?」
 渡世人飛脚の仕事を引き受けたこと悩むに至った、そのせいでふと又一郎がなぜこの稼業についているのか気にかかったのだ。
 その問いかけに、普段は陽気な又一郎の表情から生気が抜けたように平太には見えた。
「あっしは元々、侍(さむれえ)だった」
 なんとなく予想がついたいため、意外に思うこともなく平太はただうなずく。
「あるとき、家老に呼び出され『誰それを討て』と命じられたのさ。上意討ちだといってな」
「それで?」
「言われた通り、討ったさ」
 又一郎はすこしの間を空けて言葉をかさねた。
「同じ道場の門弟で、幼馴染の親爺をな」
 そのせりふに平太は目を見張る。だが、又一郎の言葉はまだつづいた。
「あとで分かったが上意討ちなんぞ嘘っぱちだった。てめえが横領をやらかすのに邪魔な勘定方に出仕していた者(もん)を始末したいだけだったのさ」
「けども、御家老の下知とありゃあ、それも致し方のねえことでござんしょう」
「けれどもよ、褒美に目が眩まなかったかあっしには断言ができねえのさ。殿の兵法指南に推挙してやる、とことの前に言い渡されていた」
 つまり、今の稼業をしているのは罪滅ぼしなのさ、と又一郎は言葉を継いだ。
 平太はそこまで聞いても異論を唱えようとした。又一郎にそこまでする必要があるとは思えなかったのだ。
 が、そんな彼を見据え又一郎は強くかぶりをふる。その態度はどう考えても安いなぐさめでは通じそうになかった。
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