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「まことに、斬られた者らは土地者ではないのだな」
「そうだよ、ここらじゃあ見ねえ顔だ」
「隠し立てすると為にならぬぞ」
「んなことしてどうすんだよ」
 妙な疑いをかけられて心外だ、と番太は憤りを面に刷いた。
「そうか」ふいに男が視線をあさってに向ける。釣られて番太も目線をそちらに移した。
 そして男をもう一度視界におさめようと思ったが、もはやその姿はどこにも見当たらなかった。
「あ、あれ?」日暮れが近づいているとはいえ、まだ陽はそこまで低くない。だというのに幽霊でも見たような気分になって番太は背筋を寒くした。

   二

 翌日、夜明け前に平太たちは宿を出た。旅路にある者は往来しているものの、土地者の姿は当然のこと少ない。
 と、この刻限にもかかわらず道端の平たい一抱えの石の上で休息をとる、旅装の女子の姿があった。こんな刻限に怪しいやつ――むろんのこと、平太は警戒心をもって臨んだ。相手が不審な動きをすこしでも見せれば腰間から銀光を噴かせる、その下地をととのえる。
「ちょいと、おまえさんたち」
 そんな平太たちに、年増の齢の女子は流し目をくれて言葉をかけてきた。黒目がちな瞳が面白がるような色を浮かべていた。
「おまえさんたち、というのはあしらのことか?」「ほかに誰がいるっていうんだい」
 足を止めて応じた又一郎に年増は小豆が軽くこすれるような音を立てて笑う。
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