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「俺は仏じゃあねえ。三度までも手落ちを許す気はねえぞ」
「へい、申し訳ありやせん」
吹っ飛んで地面に尻もちをついたのちに、平太は謝罪をふたたび口にした。
それをしばし睥睨し、次はねえからな、と又一郎は宣言した。
戦いそのものは圧勝だったが、苦いものの残る一件だった。
● ● ●
平太たちが破落戸たちとの立ち合いを経たのち、近くの村の番太が見張る骸の前に、片膝立ちになって死者たちを観察する人影が現れた。むろん、番太には鼻薬を嗅がせてある。こちらを気にしながらも、若い村の十手持ちはそ知らぬふうをよそおっていた。
そんな番太など意識にのぼらないほどに、人影、平凡な顔つきをした一見すると行商人ふうの男は骸に集中している。悲惨な死に顔が間近にあるが心はすこしも動かない。ただ、気づいた事実だけが脳裏に刻まれる。
一刀のもとに戦闘力を奪い、または命を絶つ業前、ただの旅烏ではないな――。
“追っている相手”の特徴であるだけ念入りな調べをおこなった。合計七人の死者の傷口をすべて鼻先が触れんばかりにまでなって確かめる。
ひとりは新陰流、もう片方は新当流といったところか――。
死体だけでなく、斬った張ったがあったという場所の地面も確かめた。足跡から相手の歩幅を割り出し、さらには身の丈などの体格もおおまかに割り出した。
ひとりは歩法も見事なものだが、もう片方は足運びはそこまでではない――。
どちらがそうであるかもむろんのこと推察する。
「へい、申し訳ありやせん」
吹っ飛んで地面に尻もちをついたのちに、平太は謝罪をふたたび口にした。
それをしばし睥睨し、次はねえからな、と又一郎は宣言した。
戦いそのものは圧勝だったが、苦いものの残る一件だった。
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平太たちが破落戸たちとの立ち合いを経たのち、近くの村の番太が見張る骸の前に、片膝立ちになって死者たちを観察する人影が現れた。むろん、番太には鼻薬を嗅がせてある。こちらを気にしながらも、若い村の十手持ちはそ知らぬふうをよそおっていた。
そんな番太など意識にのぼらないほどに、人影、平凡な顔つきをした一見すると行商人ふうの男は骸に集中している。悲惨な死に顔が間近にあるが心はすこしも動かない。ただ、気づいた事実だけが脳裏に刻まれる。
一刀のもとに戦闘力を奪い、または命を絶つ業前、ただの旅烏ではないな――。
“追っている相手”の特徴であるだけ念入りな調べをおこなった。合計七人の死者の傷口をすべて鼻先が触れんばかりにまでなって確かめる。
ひとりは新陰流、もう片方は新当流といったところか――。
死体だけでなく、斬った張ったがあったという場所の地面も確かめた。足跡から相手の歩幅を割り出し、さらには身の丈などの体格もおおまかに割り出した。
ひとりは歩法も見事なものだが、もう片方は足運びはそこまでではない――。
どちらがそうであるかもむろんのこと推察する。
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