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「なんだ?」
 平太の目線があさってのほうに向いているのに弥太郎が気づいて視線を移す。そして、菰に包まれた“何か”を目の当たりにした。
「あれは、なんだ」
 言いながら弥太郎は立ち合がるや近寄り勝手に菰を捲る。
 危害を加えようとしているわけではない、暴力をふるうわけにもいかず平太は「待て」と制止しながら背中を追うのにとどまった。が、物思いから立ち直るのにかかった間が弥太郎の動きを止めるのを手遅れにしている。
 菰がまくられて一拍ののち、甲高い悲鳴が朝の静けさを乱暴に切り裂いた。
 しまった、と瞬間的に思う。ただでさえ、弥太郎は自分のことを疑っているのだ。そこに、身元不明の遺体など見られてしまえばどんな勘違いをするかわかったものではない。
 刹那、藁布団に横になって掻巻を半ば跳ね飛ばしていた源太郎丸が飛び起きる。その姿に目を止めて、鬱然とした気分が一時的に紛れた。この子どももまた、死んでいたのかもしれないのだ。浪人に殺されて。
 そう思った瞬間、無関係なはずの祖母の怒り顔が脳裏に浮かんだ。腹のうちが熱くなって、暴れ出したいような心地になる。
 引き受けよう――源太郎丸を運ぶ仕事を。脈絡もなくそんな決意を抱いた。

 その後、源太郎丸の弁護もあって組頭殺害の件はとりあえず平太の手によるものではないと一応の納得がなされた。また、浪人についても「食い詰めた者が盗みに入ろうとやって来て、その姿を認めた組頭や平太に襲いかかったのだろう」ということになった。
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