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武州雲取(くもとり)領三浦家十万石の藩主と家中の忍びが茶室にこもって低い声を交わしていた。
「例の奴輩、どうやら八代(やしろ)家家中の仕事を請け負うようでございます」
「あすこは家中がふたつに割れておるからな、誰ぞの手を借りたくもなろうな」
忍びの報告に藩主は小さくうなずく。八代家は同じく甲州と境を接する場所にあり、東西で雲取領と隣接する白石領を治める家中だ。
「境目を巡る争いで遺恨もある、いっそ例の稼業の無宿どもとまとめて憂さを晴らせぬかのう」
「は、なしえぬこともございませぬ」
何気なく発した都合の言葉を肯定され藩主はかすかに目を見張った。
「まことか」
「実は例の無宿ども、つい先日も“荷”を運んだのでございますが、その折に邪魔立てしたやくざ者を斬ったとの由」
「それがどうした、くだらぬ者が死んだだけであろう」
忍びの言葉に藩主は首をかしげる。
「ところがでございます。その者のひとりが一家の親分の倅で」
「ほう」
「その怨恨を利用すれば、無宿どもの稼業を失敗らせ、八代家の邪魔立てもできるとうう一石二鳥の状況にございます」
ふうむ、と藩主はうなった。思案げな顔をしたあと、
「したが、さように上手くゆくかの」
とたずねる。
「失敗(しくじ)ったところで、またつまらぬ無宿どもが死ぬだけのこと」
それに忍びは厭らしい笑みを浮かべた。
「例の奴輩、どうやら八代(やしろ)家家中の仕事を請け負うようでございます」
「あすこは家中がふたつに割れておるからな、誰ぞの手を借りたくもなろうな」
忍びの報告に藩主は小さくうなずく。八代家は同じく甲州と境を接する場所にあり、東西で雲取領と隣接する白石領を治める家中だ。
「境目を巡る争いで遺恨もある、いっそ例の稼業の無宿どもとまとめて憂さを晴らせぬかのう」
「は、なしえぬこともございませぬ」
何気なく発した都合の言葉を肯定され藩主はかすかに目を見張った。
「まことか」
「実は例の無宿ども、つい先日も“荷”を運んだのでございますが、その折に邪魔立てしたやくざ者を斬ったとの由」
「それがどうした、くだらぬ者が死んだだけであろう」
忍びの言葉に藩主は首をかしげる。
「ところがでございます。その者のひとりが一家の親分の倅で」
「ほう」
「その怨恨を利用すれば、無宿どもの稼業を失敗らせ、八代家の邪魔立てもできるとうう一石二鳥の状況にございます」
ふうむ、と藩主はうなった。思案げな顔をしたあと、
「したが、さように上手くゆくかの」
とたずねる。
「失敗(しくじ)ったところで、またつまらぬ無宿どもが死ぬだけのこと」
それに忍びは厭らしい笑みを浮かべた。
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