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「されば、おとなしゅう命を差し出せ」
 小さく叫び、相手は銀光を閃かせる。いつの間にか取り出した短刀を投じたのだ。
 周太はとっさに避ける。が、小さな動揺が敵から体を遠ざけさせた。
 その隙を突いて忍び者は風を巻いてその場から遁走する。近くへの雑木林へと消える背中を見据え、周太は追跡をあきらめた。迂闊に死角の多い場所に飛び込んで追えば思わぬ反撃を受けかねない。
 ため息をひとつもらしたところで、
「親分、どうかしたしやしたか?」
 と乾分の若い男のひとりが面に出てきた。短い騒擾の気配を騒がしい賭場を側にしながら気づいたのだろう。
 見込んだ通りだ――とは思うものの、それをよろこぶ気分に周太はなれない。
「過去からは逃れられないものだと思いましてね」
「平太のやつのことでござんすか?」
 周太の発言に、平太と彼の因縁を知る乾分は神妙な顔つきとなった。
「平太の不幸はわたしが元凶ですからね」
 そうではない、と表情に浮かべながらも乾分は言ってお無駄と思ったのか周太に対し否定のせりふは口にしない。
 けども、じゃあどうすりゃああいつが幸せになるのか――。
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