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 そして、唖然となる平太を尻目に蹴転がしの門左にすがりついたのだ。
「門さん、門さん、しっかりしなよ」
 その必死な呼びかけで、遅ればせながら平太は状況を理解する。
 娘は門左衛門と“できて”いたのだ。村役人の不正を正すための帳簿を奪おうというやくざ者の男と。
「あんた、なんてことしてくれたのよ」
 だが、そんな娘が平太を長年追い求めた仇のように睨む。
 なんてことも糞もあるか、そうは思うものの懸想する人間を悪(わる)とはいえ目の前で殺した後味の悪さもまた事実だった。だいたい、祖母の死に安堵した自分が、父を裏切るような真似をして不義理だとは思わないのかなどとは口が裂けても言えたものではない。
「うんとかすんとか言ったらどうなのさ」
 怒鳴りながら、門左衛門の骸を脇に置いて娘が距離を詰めてきた。
 銀光一閃、相手が刃圏内に踏み込む直前のところで平太は目の高さに長脇差を薙いだ。返答の言葉を長々とつらねる代わりの挙動だった。
「それ以上近づくんじゃあねえ、女でも斬るぜ」
 平太は低い声で目を細めて脅しをかける。
「質を取った上に頭数揃えて負けたんだ、文句のつけようもあるはずがねえだろ」
 血ぶりし納刀しながら言葉を切って相手に背を向けた。
 視界から消える寸前、娘は口もとを真一文字にしこちらに鋭い眼光を向けていた。

「へえ、散々でありやした」
 平太は思ったままに周太に告げる。蚊遣りの煙が妙に目に沁みる気がした。
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