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 門左衛門に素手で立ち向かうのは無謀だ。となれば、
 三下の野郎から長脇差を奪う――。
 攻撃を待つ間に背中を丸めた姿勢をとっていた平太は飛び込むように相手に詰め寄った。
 刹那、平太のひざに向けて門左衛門の蹴りが叩き込まれる。
 そのはずだった。が、門左衛門は悲鳴をあげて転倒することになった。突如として現れた一匹の犬に腿を噛まれたのだ。
 平太はおどろく。それでも身体は動いていた。好都合なことに、相手の無宿こそ驚愕で動きが鈍る。電光石火、柔(やわら)の動きで長脇差を奪い捕った。相手の目には手妻のように映ったはずだ。閃、相手が自分の手から得物が消えたことを認めた瞬間には喉首を裂いていた。
 転瞬、平太は門左衛門のほうへと向き直る。
 犬は門左衛門からはなれ、平太の側へと移動していた。門左衛門に身体を向けながらも畜生はこちらにつぶらな目を向けている。とたん、平太の脳裏にひらめくものがった。
「まさか、てめえが親分のいってた仲間なのか?」
 平太がたずねるや、犬が一声吠(ほ)える。
「糞、ふざけやがって。その畜生はてめえのもんか」
 蹴倒しの門左は、血で汚れた腿を片手で抑えながらすさまじい形相でこちらを睨んだ。
「畜生はてめえだろう、女を拐すような痴れ者(もん)が“吠える”な」
 平太は相手を皮肉りながら刺突の構えをとる。
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