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 得物を追うことは許されない。三度目の蹴撃を反射的に躱すのに懸命だった。
 平太はなんとか距離を置いて、ひざに立ちなる。刃先を損じた長脇差を構えた無宿とその宰領と両斜めに対峙した。
「生憎だったな、俺様は“蹴倒しの門左”の通り名で知られる男なのさ」
 言うや、門左衛門はその場で飛び上がって宙返りしてみせる。その跳躍の高さは、常人の倍に達しようというものだ。
「下肢を狙われちゃ剣術(やっとう)が得意な野郎も形無しだろう?」
 一対一なら例え下段への攻撃でも喰らわなかったという言い訳は実戦では許されない、平太はその事実をくやしさとともに噛みしめる。荒れた呼吸をなんとか沈めながらも手詰まりになっていた。
 素手で切り抜けられる状況ではない。しかし、得物は手もとをはなれた。
 転がった長脇差は平太の右斜め前にある。だが、門左衛門と平太、双方ともに得物までの距離は等しかった。隙を突いて得物に飛びつく、それを許すほどに門左衛門が甘くはないだろう。そして、そうであったとしても敵はもうひとりいる。
 無宿の股関節の動きと吐く息が攻撃の起こりを平太に知らせた。すこし遅れて化鳥のごとく門左衛門も地面を蹴る。
 のがれる術はない――平太は目の前が暗くなるのを感じながらせめても抵抗で身体を動かす。
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