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「殊勝じゃねえか、言われた通りに来るとはよ」
 宰領格の無宿が皮肉げに口もとを歪める。
「感心したなら、女を放しな。堅気に手を出すなんざ、渡世の風上にも置けねえだろ」
「知った風な口を利くんなじゃねえ、昨日今日無宿になったような野郎が」
 平太の口上に即座に、左端の提灯を持ったやつが噛み付いた。平太は頭に血が昇るのを感じながらも、他方で疑問をおぼえる。なんで、こいつおれが新入りなのを知っている?
 仮の渡世人という立場による貫禄不足が原因だろうか。
「おい、もうひとりの野郎はどうした?」「尻を帆をつけて逃げやがったのさ」
 相手の恫喝じみた質問に応じながらも平太はふたたび疑問を感じた。
 なんで、こいつらはおれたちがふたり連れだって知っている?
 往来に見張る者がいたのか。少なくとも、尾行(つけ)られていた気配はなかったはずだ。それぐらいは剣術に精を出していたお陰でわかる。
「なんだと?」宰領格がいぶかしそうな顔をした。が、「まあ、いい」とすぐに思い直したように表情を変える。
「てめえ、帳簿は持ってきたんだろうな」「もちろんだ」
 問いかけに対し、平太は懐から冊子を取り出してみせた。ただし、これは宿で借りてきた宿帳に過ぎない。
「さっさと渡しな」「女のほうが先だ」
 顎をしゃくられるが首を横にふった。
「しゃらくせえ、まどろこっしいんだよ」
 とたん、右から二番目の無宿が肩を怒らせ長脇差を前に進み出る。
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