146 / 158
158
しおりを挟む
轟発一声、それに銃声が応じる。あがったのは、道の両脇の藪の中だ。突如として銃火が生じた。百姓を動員しておこなった野戦築城は馬防柵だけではない、藪の中に塹壕を構築している。ために物見に見つかることなく、この“伏奸”が成功した。
稲妻に撃たれたように士卒が力尽きて倒れていく。
合計、十挺、頼りない数字だ。それでも少ない鉄砲を最大限に生かし、山崩れに巻き込んだかのごとく敵の数を削った。
だが、敵が策にはまったのはここまでだ。
「敵は藪の中ぞ、まずは右手の敵を討て」
敵将が声を張り上げるのが聞こえる。
ここで、軍勢をふたつに割ってくれれば敵の分断がなったのだがそこまで甘くなかった。 下知を受けて、士卒が右手に向かって殺到を始める。
「陰陽頭殿」と呼ぶ声があった。いつの間にか、冷泉為純が側らに佇んでいる。その目は死地にあって活き活きと輝いていた。
「貴殿の采配ぶり、見事であった。感服つかまくった」
「感服など――」
「そこから先は申されるな。ここまであらがえただけでも僥倖」
為純に言われ、久脩は言葉を呑んだ。
「みなの者、城へと退(ひ)くぞ」
為純の下知のもと、先ほどの演技が嘘のように整然と士卒は陣払いをする。
これには理由があった。
こちがこの者たちを識神となさしめたため――別所麾下の兵動く、の報を受けた冷泉為純に頼まれたのだ。
『是非にお願いしたき儀がある』と。
『我ら小勢、それも戦の経験浅き者どもが敵に伍するには死の恐怖は邪魔になる』
だから、識神となさしめ一片の恐れもなく戦えるようにしてくれ、と。
稲妻に撃たれたように士卒が力尽きて倒れていく。
合計、十挺、頼りない数字だ。それでも少ない鉄砲を最大限に生かし、山崩れに巻き込んだかのごとく敵の数を削った。
だが、敵が策にはまったのはここまでだ。
「敵は藪の中ぞ、まずは右手の敵を討て」
敵将が声を張り上げるのが聞こえる。
ここで、軍勢をふたつに割ってくれれば敵の分断がなったのだがそこまで甘くなかった。 下知を受けて、士卒が右手に向かって殺到を始める。
「陰陽頭殿」と呼ぶ声があった。いつの間にか、冷泉為純が側らに佇んでいる。その目は死地にあって活き活きと輝いていた。
「貴殿の采配ぶり、見事であった。感服つかまくった」
「感服など――」
「そこから先は申されるな。ここまであらがえただけでも僥倖」
為純に言われ、久脩は言葉を呑んだ。
「みなの者、城へと退(ひ)くぞ」
為純の下知のもと、先ほどの演技が嘘のように整然と士卒は陣払いをする。
これには理由があった。
こちがこの者たちを識神となさしめたため――別所麾下の兵動く、の報を受けた冷泉為純に頼まれたのだ。
『是非にお願いしたき儀がある』と。
『我ら小勢、それも戦の経験浅き者どもが敵に伍するには死の恐怖は邪魔になる』
だから、識神となさしめ一片の恐れもなく戦えるようにしてくれ、と。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
教皇の獲物(ジビエ) 〜コンスタンティノポリスに角笛が響く時〜
H・カザーン
歴史・時代
西暦一四五一年。
ローマ教皇の甥レオナルド・ディ・サヴォイアは、十九歳の若さでヴァティカンの枢機卿に叙階(任命)された。
西ローマ帝国を始め広大な西欧の上に立つローマ教皇。一方、その当時の東ローマ帝国は、かつての栄華も去り首都コンスタンティノポリスのみを城壁で囲まれた地域に縮小され、若きオスマンの新皇帝メフメト二世から圧迫を受け続けている都市国家だった。
そんなある日、メフメトと同い年のレオナルドは、ヴァティカンから東ローマとオスマン両帝国の和平大使としての任務を受ける。行方不明だった王女クラウディアに幼い頃から心を寄せていたレオナルドだが、彼女が見つかったかもしれない可能性を西欧に残したまま、遥か東の都コンスタンティノポリスに旅立つ。
教皇はレオナルドを守るため、オスマンとの戦争勃発前には必ず帰還せよと固く申付ける。
交渉後に帰国しようと教皇勅使の船が出港した瞬間、オスマンの攻撃を受け逃れてきたヴェネツィア商船を救い、レオナルドらは東ローマ帝国に引き返すことになった。そのままコンスタンティノポリスにとどまった彼らは、四月、ついにメフメトに城壁の周囲を包囲され、籠城戦に巻き込まれてしまうのだった。
史実に基づいた創作ヨーロッパ史!
わりと大手による新人賞の三次通過作品を改稿したものです。四次の壁はテオドシウス城壁より高いので、なかなか……。
表紙のイラストは都合により主人公じゃなくてユージェニオになってしまいました(スマソ)レオナルドは、もう少し孤独でストイックなイメージのつもり……だったり(*´-`)
あさきゆめみし
八神真哉
歴史・時代
山賊に襲われた、わけありの美貌の姫君。
それを助ける正体不明の若き男。
その法力に敵う者なしと謳われる、鬼の法師、酒呑童子。
三者が交わるとき、封印された過去と十種神宝が蘇る。
毎週金曜日更新
水野勝成 居候報恩記
尾方佐羽
歴史・時代
⭐タイトルを替えました。
⭐『福山ご城下開端の記』もよろしくお願いします。
⭐福山城さま令和の大普請、完成おめでとうございます。
⭐2020年1月21日、5月4日に福山市の『福山城築城400年』Facebookでご紹介いただきました。https://m.facebook.com/fukuyama400/
備後福山藩初代藩主、水野勝成が若い頃放浪を重ねたあと、備中(現在の岡山県)の片隅で居候をすることになるお話です。一番鑓しかしたくない、天下無双の暴れ者が、備中の片隅で居候した末に見つけたものは何だったのでしょうか。
→本編は完結、関連の話題を適宜更新。
天明繚乱 ~次期将軍の座~
ご隠居
歴史・時代
時は天明、幼少のみぎりには定火消の役屋敷でガエンと共に暮らしたこともあるバサラな旗本、鷲巣(わしのす)益五郎(ますごろう)とそんな彼を取り巻く者たちの物語。それに11代将軍の座をめぐる争いあり、徳川家基の死の真相をめぐる争いあり、そんな物語です。
天下の陰 ~落ちたる城主~
葦池昂暁
歴史・時代
戦国の世に裏切りは付き物であり、それゆえに家臣には忠節を求めるのである。そのような時代、村の庄屋が百姓たちと戦火から逃れる算段を立てると、合戦の最中に一人の童が現れたのだった。
人の優しさと歴史に残らぬ物語
久野市さんは忍びたい
白い彗星
青春
一人暮らしの瀬戸原 木葉の下に現れた女の子。忍びの家系である久野市 忍はある使命のため、木葉と一緒に暮らすことに。同年代の女子との生活に戸惑う木葉だが……?
木葉を「主様」と慕う忍は、しかし現代生活に慣れておらず、結局木葉が忍の世話をすることに?
日常やトラブルを乗り越え、お互いに生活していく中で、二人の中でその関係性に変化が生まれていく。
「胸がぽかぽかする……この気持ちは、いったいなんでしょう」
これは使命感? それとも……
現代世界に現れた古き忍びくノ一は、果たして己の使命をまっとうできるのか!?
木葉の周囲の人々とも徐々に関わりを持っていく……ドタバタ生活が始まる!
小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも連載しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる