上 下
143 / 158

155

しおりを挟む
● ● ●

 公家ごとき一揉みに潰してくれるわ――。
 夜道を牧を噛ませた馬に騎乗し軍兵に囲まれて進みながら、大村祐治は胸のうちでつぶやいた。音を殺して奇襲を企てる士卒の数は二百ほど、常識的に考えて戦国大名化に成功していない公家を討つには充分な戦力だ。
 が、城につづく道を進むうちに祐治は眉をひそめることになる。
「あれは」
 彼は目の当たりにしたのは、話に聞く織田信長が長篠の役でもちいたという馬防柵だった。数は十幾つと少ないが間違いない。
 公家ごときが小癪な真似を――祐治は笑みを浮かべた。
 いっそ、冷泉為純のことがいじらしくすら感じられる。確かに、馬防柵はそれなりに軍立場で威力を発揮しただろう。だが、信長の勝因の一位ではない。まず、単純に織田側の軍兵は圧倒的に武田に比べ多かった。そして、徳川麾下の兵に背後の城を落とされ退路を断たれたと早合点した武田の捨て鉢な行動が原因の第二位だ。
 ために、馬防柵だけを真似たところで戦の趨勢は変わらぬ――。
 祐治は勝利を確信しながら、采配をふりあげる。
 とたん、陣太鼓、陣鉦がけたたましくなりひびいた。槍穂の銀光が津波となって馬防柵へとせまっていく。甲冑がこすれていっそう賑やかさを増させた。
 それに紛れて、風を切る音が掻き消されたことにこの瞬間、気づかされる。
 戦陣を切っていた軍兵が十数人が同時に転倒した。それに後続が巻き込まれた。一斉に混乱が起こる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品) とある権力者が死に瀕し、富士の山に眠っているという不死の薬を求める。巡り巡って、薬の探索の役目が主人の藤原忠平を通して将門へと下される。そんな彼のもとに朝廷は、朝廷との共存の道を選んだ山の民の一派から人材を派遣する。冬山に挑む将門たち。麓で狼に襲われ、さらに山を登っていると吹雪が行く手を阻む――

母の城 ~若き日の信長とその母・土田御前をめぐる物語

くまいくまきち
歴史・時代
愛知県名古屋市千種区にある末森城跡。戦国末期、この地に築かれた城には信長の母・土田御前が弟・勘十郎とともに住まいしていた。信長にとってこの末森城は「母の城」であった。

明日の海

山本五十六の孫
歴史・時代
4月7日、天一号作戦の下、大和は坊ノ岬沖海戦を行う。多数の爆撃や魚雷が大和を襲う。そして、一発の爆弾が弾薬庫に被弾し、大和は乗組員と共に轟沈する、はずだった。しかし大和は2015年、戦後70年の世へとタイムスリップしてしまう。大和は現代の艦艇、航空機、そして日本国に翻弄される。そしてそんな中、中国が尖閣諸島への攻撃を行い、その動乱に艦長の江熊たちと共に大和も巻き込まれていく。 世界最大の戦艦と呼ばれた戦艦と、艦長江熊をはじめとした乗組員が現代と戦う、逆ジパング的なストーリー←これを言って良かったのか 主な登場人物 艦長 江熊 副長兼砲雷長 尾崎 船務長 須田 航海長 嶋田 機関長 池田

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

師匠はうっかり転生しちゃった伝説の陰陽師!

彩世幻夜
ファンタジー
五月。天気の良いある日の事。 神社の境内に突如雷が落ちた。 境内で読書をしていた筈が、目を開けたら……そこは異世界でした。 転移した先で出会った仲間と冒険したり友情を育んだり恋愛したり。 これは、人生が世界ごと塗り替えられた、〝私〟の物語である。 ※九月中は0時と12時の一日二回更新します! ※ファンタジー小説大賞エントリー中

【 よくあるバイト 】完

霜月 雄之助
BL
若い時には 色んな稼ぎ方があった。 様々な男たちの物語。

天明繚乱 ~次期将軍の座~

ご隠居
歴史・時代
時は天明、幼少のみぎりには定火消の役屋敷でガエンと共に暮らしたこともあるバサラな旗本、鷲巣(わしのす)益五郎(ますごろう)とそんな彼を取り巻く者たちの物語。それに11代将軍の座をめぐる争いあり、徳川家基の死の真相をめぐる争いあり、そんな物語です。

『潮が満ちたら、会いに行く』

古代の誇大妄想家
歴史・時代
4000年前の縄文時代の日本、筋ジストロフィーに罹った少年と、同い年の主人公とその周りの人たちを描いた作品です。 北海道入江・高砂貝塚で発見された遺骨を元に、書きました。 何故、筋ジストロフィーに罹った彼は、生きる事を選んだのか。周りの人たちや主人公が身体的に発達していくのにもかかわらず、絶望せず、生き抜いたのか。 そして、村の人たちは何故、彼を村の一員として埋葬したのか。 歴史・病気・心理・哲学的思考を元に考えた、私の古代の誇大妄想です。 ですが、少しでも事実が含まれていたらうれしい。そんな物語です。

処理中です...