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「かつて、公家もかようにして戦に赴いておったのじゃ。守るべきもののために。それを、我らは忘れてはならぬことを忘れておったのじゃ。忌まわしくとも、時に戦は入用となる。我らが望まずともな」
「さようにございますな」為純の言葉に、今度は久脩が強く顎を引いた。兵法(へいほう)の力量などに不安はあるが、その気持ちは共感のできるものだ。
「時に、陰陽頭殿はなにゆえに我らに合力なさる。織田右府殿の『国人を敵と手を組まぬように説き伏せよ』という任は、当家においては果たされておよう。我らの動きに別所は勘付いておるはず、退転いたさばそちも危うかろう」
「正直申さば、こちも退きたきは山々でございます」
為純への久脩の返答に為勝が、む、と唇を引き結んだ。
「されど、この地に識神が現れたとなれば事情は変わりまする。元はといえば、賀茂家が生み出した、安倍家が生み出したとも言われる術。安倍家は元は賀茂の弟子筋であれば、賀茂家が元凶も同然、捨て置くことはできませぬ」
「されど、数百年の昔の先祖の罪ぞ」
久脩のせりふに表情を改めた為勝が異論を唱える。
「正直に申さば、こちは生きる事由は欲しいのでございます。右から左にただ先祖伝来の業を伝え、家を守り、そして寿命を迎えて果てる。武士のごとく所領をおのが手で守る訳でもなく、農人のごとく土地を耕すでもなく、ただ生きる。これでは、こちは書状を送る折の油紙と変わらぬではございませぬか」
生きる事由? と為純は眉をひそめた。為純の覚悟が伝染したように久脩の口調にも熱がこもった。
「先祖の業や家を伝える、入れ物か」
面白きことを考える、と為純が笑みを浮かべる。
「さようにございますな」為純の言葉に、今度は久脩が強く顎を引いた。兵法(へいほう)の力量などに不安はあるが、その気持ちは共感のできるものだ。
「時に、陰陽頭殿はなにゆえに我らに合力なさる。織田右府殿の『国人を敵と手を組まぬように説き伏せよ』という任は、当家においては果たされておよう。我らの動きに別所は勘付いておるはず、退転いたさばそちも危うかろう」
「正直申さば、こちも退きたきは山々でございます」
為純への久脩の返答に為勝が、む、と唇を引き結んだ。
「されど、この地に識神が現れたとなれば事情は変わりまする。元はといえば、賀茂家が生み出した、安倍家が生み出したとも言われる術。安倍家は元は賀茂の弟子筋であれば、賀茂家が元凶も同然、捨て置くことはできませぬ」
「されど、数百年の昔の先祖の罪ぞ」
久脩のせりふに表情を改めた為勝が異論を唱える。
「正直に申さば、こちは生きる事由は欲しいのでございます。右から左にただ先祖伝来の業を伝え、家を守り、そして寿命を迎えて果てる。武士のごとく所領をおのが手で守る訳でもなく、農人のごとく土地を耕すでもなく、ただ生きる。これでは、こちは書状を送る折の油紙と変わらぬではございませぬか」
生きる事由? と為純は眉をひそめた。為純の覚悟が伝染したように久脩の口調にも熱がこもった。
「先祖の業や家を伝える、入れ物か」
面白きことを考える、と為純が笑みを浮かべる。
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