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「別所家に寄騎しておった被官で、織田に弓引くことをがえんじんかった者がさような者たちに襲われたという話を聞いてござるな。なんでも、土民の類に見えたというに、主従もろとも仲間が討たれるのにも構わず殺めたとか」
 思い出しておそろしくなったのか甚之丞の顔が青ざめた。
 織田家へ与する者を少しでも確保するという点では完全に失敗だったようだ。
 しかし、
 成果はあった――。
 久脩はそういう思いを抱く。播磨くんだりまでやって来たのは識神の噂あるためだ。
 陰陽道の家を継いだ身として、やはり陰陽道の業が人を傷つけるのは捨て置けない。それが久脩が自分に見い出した“意味”だ。少なくとも、ただ単に先祖伝来の技を次世代に受け継ぐだけよりは意義のあることに思える。
 そうでないと、この乱世を生きていく自信が持てない。それは久脩にとっては切実な問題だった。
「一大事でございます」
 ふたりがいる部屋に障子を開けて中間が姿を現す。
「谷口治大夫殿が仕物にかけられてございます」
「何者の仕業だっ?」
 家臣の不作法を叱ることを忘れ、甚之丞はうろたえた。
「別所殿が被官を討った、その恨みによると書状が残されておったそうでございます」
 中間の返答に、甚之丞は難しい顔になって考え込む。そして、こちらに猜疑の目を向けた。疑っているのだ。折も折だ。別所氏と国人の関係に罅を入らせる動機は充分になるというものだった。
 久脩も心当たりがなくはなかったから後ろ暗い。
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