110 / 158
110
しおりを挟む
「殿下に関わり合いになるのは止めたにいたせ」
平安雲居に属さない彼だが、その存在は薄々察知しているのだろう、表情に気づかいの色が宿っていた。
「乱世とは大風のようなものでおじゃる。源平、南北朝とくり返せど、いつかは収まるものでおじゃろう。なにもみずからを危うくすることはない」
それもひとつの考え方だろう。
だが、久脩には肯んじることはできない。各々が無責任に欲望や感情に取りつかれて動いた結果がこの戦国乱世だと思うのだ。だったら、たとえ小さな人間ひとりでもなにかをなすべきだろう。
「お心遣い痛み入りまする、義兄上様(あにうえさん)」
久脩の返答に、晴豊はむずかしい顔をした。
義理の弟ということもあるが、土御門家の当主が死んでもし継ぐ者が居なければ援助もまた途切れることになる、そういう懸念もあるだろう。それが“家”の当主というものだ、冷たい批判するのはお門違いだ。
「まったく、そういう利かん気の強さは、妻(うもじ)にそっくりでおじゃる」
口ではあきれたふうに言いながら晴豊はどこかまぶしげな目をしている。
彼はふいに立ち上がるや部屋の隅の文机に向かった。
久脩が怪訝な視線を向けていると、なにやら筆を紙面に走らせた彼がもどってきてそれを差し出す。
「播磨には冷泉家の所領がおじゃる。紹介状をしたためたゆえ、何か困った折は訪れるとよいでおじゃる」
「ありがとう存じます」
久脩は晴豊の気づかいにすこし胸を熱くした。
乱世のこと、若輩の身で父を亡くすことなど珍しくないが、それで心細さが減じる訳ではない。自分が“土御門家を背負って立たなければ”と気負っていたことを久脩は自覚する。
それを見透かしたように、
「こちは先代、先々代と長生きでおじゃるから、まだしも気楽でおじゃるが、そもじのごとき齢で家を継ぐのは大変でおじゃろう」
と同情の言葉を吐いた。
平安雲居に属さない彼だが、その存在は薄々察知しているのだろう、表情に気づかいの色が宿っていた。
「乱世とは大風のようなものでおじゃる。源平、南北朝とくり返せど、いつかは収まるものでおじゃろう。なにもみずからを危うくすることはない」
それもひとつの考え方だろう。
だが、久脩には肯んじることはできない。各々が無責任に欲望や感情に取りつかれて動いた結果がこの戦国乱世だと思うのだ。だったら、たとえ小さな人間ひとりでもなにかをなすべきだろう。
「お心遣い痛み入りまする、義兄上様(あにうえさん)」
久脩の返答に、晴豊はむずかしい顔をした。
義理の弟ということもあるが、土御門家の当主が死んでもし継ぐ者が居なければ援助もまた途切れることになる、そういう懸念もあるだろう。それが“家”の当主というものだ、冷たい批判するのはお門違いだ。
「まったく、そういう利かん気の強さは、妻(うもじ)にそっくりでおじゃる」
口ではあきれたふうに言いながら晴豊はどこかまぶしげな目をしている。
彼はふいに立ち上がるや部屋の隅の文机に向かった。
久脩が怪訝な視線を向けていると、なにやら筆を紙面に走らせた彼がもどってきてそれを差し出す。
「播磨には冷泉家の所領がおじゃる。紹介状をしたためたゆえ、何か困った折は訪れるとよいでおじゃる」
「ありがとう存じます」
久脩は晴豊の気づかいにすこし胸を熱くした。
乱世のこと、若輩の身で父を亡くすことなど珍しくないが、それで心細さが減じる訳ではない。自分が“土御門家を背負って立たなければ”と気負っていたことを久脩は自覚する。
それを見透かしたように、
「こちは先代、先々代と長生きでおじゃるから、まだしも気楽でおじゃるが、そもじのごとき齢で家を継ぐのは大変でおじゃろう」
と同情の言葉を吐いた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)猟師として生きている栄助。ありきたりな日常がいつまでも続くと思っていた。
だが、陣借り無宿というやくざ者たちの出入り――戦に、陣借りする一種の傭兵に従兄弟に誘われる。
その後、栄助は陣借り無宿のひとりとして従兄弟に付き従う。たどりついた宿場で陣借り無宿としての働き、その魔力に栄助は魅入られる。

忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)藩の忍びだった小平治と仲間たち、彼らは江戸の裏長屋に住まう身となっていた。藩が改易にあい、食い扶持を求めて江戸に出たのだ。
が、それまで忍びとして生きていた者がそうそう次の仕事など見つけられるはずもない。
そんな小平治は、大店の主とひょんなことから懇意になり、藩の忍び一同で雇われて仕事をこなす忍びの口入れ屋を稼業とすることになる――

切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)暦道を司る賀茂の裔として生まれ、暦を独自に研究していた勘解由小路在昌(かげゆこうじあきまさ)。彼は現在(いま)の暦に対し不満を抱き、新たな知識を求めて耶蘇教へ入信するなどしていた。だが、些細なことから法華宗門と諍いを起こし、京を出奔しなければならなくなる。この折、知己となっていた織田信長、彼に仕える透波に助けられた。その後、耶蘇教が根を張る豊後へと向かう――
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品) 世は戦国乱世、豊後を侵した毛利元就対抗するためにひそかに立ち上がった者がいた。それは司祭(パードレ)アルメイダ。元商人の彼は日頃からその手腕を用いて焔硝の調達などによって豊後大友家に貢献していた。そんなアルメイダは、大内家を滅ぼし切支丹の布教の火を消した毛利が九州に進出することは許容できない。ために、元毛利家の忍びである切支丹ロレンソ了斎を、彼がもと忍びであることを知っているという弱みを握っていることを盾に協力を強引に約束させた――
楽将伝
九情承太郎
歴史・時代
三人の天下人と、最も遊んだ楽将・金森長近(ながちか)のスチャラカ戦国物語
織田信長の親衛隊は
気楽な稼業と
きたもんだ(嘘)
戦国史上、最もブラックな職場
「織田信長の親衛隊」
そこで働きながらも、マイペースを貫く、趣味の人がいた
金森可近(ありちか)、後の長近(ながちか)
天下人さえ遊びに来る、趣味の達人の物語を、ご賞味ください!!
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる