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一般に雑賀衆の多くは一向宗門徒ゆえに石山本願寺に協力したとされるが、それは間違いだ。
彼らは自主自立の精神を持ち、それは余人の認めるところでもあった。ただし、後世の民主的な“自立”ではなく、あくまで封建制領主が君主をいただかなないといった程度のことだが。
石山本願寺は複数の反信長勢力とむすんでおり、またその城砦群は信長と戦う上で非常に有効なものだった。そのため、自分たちの都合で雑賀衆は本願寺に協力したのだ。
ただ、彼らの果たした役割は小さくない。まず、本願寺を支えた補給路はおもに海路に頼ったものだがこれは雑賀やその近辺の海賊門徒がになった。また本願寺周辺に雑賀衆がいるかどうかということは本願寺の首脳部によって大変な問題であったことは、一帯に彼らがいない状況を顕如がひと方ならず憂慮している、と坊官下間頼兼から雑賀御坊惣中に宛てた文書が残っており、事実上は雑賀衆を頼り切っていたのだ。
ゆえにこそ、雑賀衆を叩けば本願寺は陥ちると内府様は思案なされた――そこに、戦術は平凡でも戦略家としては優れている点があると久脩は思っている。
しばらく雑談に近い話をしたところで、本題を切りだした。
「織田家家中に貴殿らに内通する者がおられるとか」
とたん、雑賀の卒が身じろぎするような動きを見せる。おそらく、縛られているのを忘れて手を盆の首にやるなどの動きを取ろうとしたのだ。
「次郎太、縄を解け」
「許しを得ずにおこなえば、罰を受けませぬか」
「敵地におるさなか、いちいち許しを待っておってはいくら時がかかるかわからぬ」
次郎太の危惧を久脩は首をふってはねのける。
彼らは自主自立の精神を持ち、それは余人の認めるところでもあった。ただし、後世の民主的な“自立”ではなく、あくまで封建制領主が君主をいただかなないといった程度のことだが。
石山本願寺は複数の反信長勢力とむすんでおり、またその城砦群は信長と戦う上で非常に有効なものだった。そのため、自分たちの都合で雑賀衆は本願寺に協力したのだ。
ただ、彼らの果たした役割は小さくない。まず、本願寺を支えた補給路はおもに海路に頼ったものだがこれは雑賀やその近辺の海賊門徒がになった。また本願寺周辺に雑賀衆がいるかどうかということは本願寺の首脳部によって大変な問題であったことは、一帯に彼らがいない状況を顕如がひと方ならず憂慮している、と坊官下間頼兼から雑賀御坊惣中に宛てた文書が残っており、事実上は雑賀衆を頼り切っていたのだ。
ゆえにこそ、雑賀衆を叩けば本願寺は陥ちると内府様は思案なされた――そこに、戦術は平凡でも戦略家としては優れている点があると久脩は思っている。
しばらく雑談に近い話をしたところで、本題を切りだした。
「織田家家中に貴殿らに内通する者がおられるとか」
とたん、雑賀の卒が身じろぎするような動きを見せる。おそらく、縛られているのを忘れて手を盆の首にやるなどの動きを取ろうとしたのだ。
「次郎太、縄を解け」
「許しを得ずにおこなえば、罰を受けませぬか」
「敵地におるさなか、いちいち許しを待っておってはいくら時がかかるかわからぬ」
次郎太の危惧を久脩は首をふってはねのける。
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