信長、秀吉に勝った陰陽師――五色が描く世界の果て(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「次郎太、そういう“者”だと割り切れ」
 年下の久脩の忠告に、次郎太は顔をしかめながらも「承知いたしました」と応じた。
 が、悶着はこれだけでは終わらない。長頼の手の者が、雑賀衆の人間を連れてきたとたん、
「さあ、どのようにこやつらを痛めつける」
 と大きな声で広純が言い放ったのだ。
 次郎太に忠言したばかりだが、久脩はつま先立ちになって思わず広純の頭を叩く。
「相手が違うのではないか?」「そなたは黙っておれ」
 広純は衝撃の走った場所を抑え奇異の念を露わにした。久脩はそれには答えず声を低めて彼を睨んだ。
 拷問というのは実行するより、そうするぞと脅すほうが効果があるのだ――陰陽師の陰の歴史の中でそれは証明されている。未来を予知する、そういった力の正体は所詮は“そんなもの”だ。
「ひとりずつ、話を聞きたい。ひとりを残して余の者は元の場所へもどしていただきたい」
 広純から顔を背け、久脩は長頼の手の者に向かって告げる。広純のせいで表情を硬くした者たちのうち、五人が本堂を去って行った。
 そして、残ったひとりと久脩は腰を下ろして対峙する。
「貴殿は紀伊の出であられるとか」
「さようでございます」
「雑賀衆であられる?」
「さよう」
「やはり、鉄砲の扱いには長けておられようか?」
「むろん」
 脇で次郎太、広純が見守る中、久脩は当たり障りのない話をしばらくつづけた。むろん、意味があってのことだ。相手には悟られぬよう彼は相手を注視した。
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