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「ほかにどうしようもなく仲間が死んでいくのなら俺も納得しよう。したが、余に手立てがあるというのに里の者を死なせることは罷りならん」
お前の手足をもぎ取ってでも俺は術を使わせるぞ、一段と声を低めて広純はこちらを睨む。本気だ――久脩はその事実を悟った。同時に、人の命を背負う者の重責も実感する。
父、土御門久脩は織田信長に媚びへつらっていた。そのことに対し、久脩はどこかで「殺人の上手に尾を振るなど」という思いを抱いていた。
しかしいざ、自分が修羅場に立ってみて分かる。非道ともいえる手段を求められる局面が、味方の命とそれ以外の命を秤にかける瞬間がおとずれるのだと知ったからこそ、織田信長という男の大きさのようなものが理解できた。
いいのか、と広純が言葉を継ぐのを聞き久脩は我に返る。
「無差別に識神が人に襲いかかるのは、忍びを虐殺したことでわかっただろう。放っておけば、無関係な村の者たちまで犠牲になるぞ」
卑怯な、と久脩はくちびるを噛んだ。
だが世は乱世、卑怯もなにもない、生き残った者こそが正義。“義”がある分だけ、こたびの戦いはましといえる。頭では久脩もそれらのことを理解していた。
と、ふいに天幕の出入り口を割って小さな人影が現われる。集落の子どもだった。なにかをこらえるような顔でこちらを見る。
「みんなを助けてくれて、ありがとう」
彼は涙をこぼしながら礼をのべた。
本来なら、文句を言いたいところだろう。もっと早くに来てくれれば、幼いのだから余計に感情の面で得心がいかないはずだ。それを抑えてこの子どもは久脩たちに感謝をつたえに来た。この光景を目の当たりにした瞬間、久脩の心は動く。動かざるを得なかった。
お前の手足をもぎ取ってでも俺は術を使わせるぞ、一段と声を低めて広純はこちらを睨む。本気だ――久脩はその事実を悟った。同時に、人の命を背負う者の重責も実感する。
父、土御門久脩は織田信長に媚びへつらっていた。そのことに対し、久脩はどこかで「殺人の上手に尾を振るなど」という思いを抱いていた。
しかしいざ、自分が修羅場に立ってみて分かる。非道ともいえる手段を求められる局面が、味方の命とそれ以外の命を秤にかける瞬間がおとずれるのだと知ったからこそ、織田信長という男の大きさのようなものが理解できた。
いいのか、と広純が言葉を継ぐのを聞き久脩は我に返る。
「無差別に識神が人に襲いかかるのは、忍びを虐殺したことでわかっただろう。放っておけば、無関係な村の者たちまで犠牲になるぞ」
卑怯な、と久脩はくちびるを噛んだ。
だが世は乱世、卑怯もなにもない、生き残った者こそが正義。“義”がある分だけ、こたびの戦いはましといえる。頭では久脩もそれらのことを理解していた。
と、ふいに天幕の出入り口を割って小さな人影が現われる。集落の子どもだった。なにかをこらえるような顔でこちらを見る。
「みんなを助けてくれて、ありがとう」
彼は涙をこぼしながら礼をのべた。
本来なら、文句を言いたいところだろう。もっと早くに来てくれれば、幼いのだから余計に感情の面で得心がいかないはずだ。それを抑えてこの子どもは久脩たちに感謝をつたえに来た。この光景を目の当たりにした瞬間、久脩の心は動く。動かざるを得なかった。
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