信長、秀吉に勝った陰陽師――五色が描く世界の果て(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 寺の戸口をつっかい棒で厳重に戸締りした上で堂に火を放った。自害を装った上で、久脩たちは床の穴から外に出て逃げ出したのだ。忍びが相手なら通じなかっただろうが、判断能力の低い識神が相手のお陰で無事にその場をのがれることができた。
 ところが、しばらくして突破のひとりが獣に襲われたのだ。
 一匹の犬だった。しかも、太刀で斬りつけられても容易に相手を離さないような挙動を見せる。その光景を見て久脩は直感した、識神の術にかかっている、と。
 なんとか犬を殺して引き剥がしたが仲間は深手を負った。
 その末に、道なき山中を進んでいると賑やかな声に遭遇したのだ。一瞬、なにかの策かと疑った。突破のひとりが物見に出て、すぐに事の真相は明らかとなる。声の主たちはくだんの、久脩たちに撃退された野武士(のぶせり)たちだったのだ。
 彼らが、なんらかの理由で男衆が不在の山の民の移動集落を襲い、そして彼らの食い物を奪って宴を開いていた。むろん、女は犯され子どもも売り飛ばすために縛られ転がされている。
 この事実に広純たちは激昂した。遁走の最中ではあるが――他にも犬が追ってきている気配があった――野武士退治を決めてしまったのだ。
 女色に溺れる彼らは、得物を持つどころか満足に小袖すら身につけていなかった。ために、二三人を見せしめに殺して「逆らえば殺す」と脅せば効果は充分だった。あるいは、村の男衆が帰ってきたと思い込んだのかもしれない。
 このあいだ見かけなかった面子も加え、二十人からなる男たちを久脩たちは拘束した。そして、今に至っている。
「なるほど、陰陽道にはそんな恐ろしい術があるのか」
 さらには、久脩が知っていることを語り終えたところでもあった。
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