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「どうした?」
「人を殺めたあとでよくも肉を喰らえる、と思った」
 一瞬の躊躇のあと、久脩は声を震わせながら答えた。ふむ、広純は奇異の念に囚われる。
「獣を殺してすぐに食すことなど珍しくない」
「人と獣は」
「違うのか」先回りして問いかけに久脩が一瞬黙った。
「俺にはお前たちのほうがおかしなことをしているように映る」
 広純の発言に、え、と久脩がいぶかしげな顔をする。
「余人に要らぬ干渉をするから争いになる。なぜ、平穏に暮らせない」
 それは、と久脩は言いかけながらも言葉に詰まった。が、それでも思い直したのか口を開いた。
「ただ生きるのなら野の獣と同じだ」
「それのどこが悪い」
「それでよい者もいるのやもしれないが、人には獣にない知恵がある。智者として、ただ日々を生くるのは虚しいのだ」
「その末に、殺し、殺されるのか」
 世俗とのかかわりをなるべく持たずに生きる山の民として長年疑問に思っていたことだ。
「なしうるのなら、殺伐とした仕儀に至るのは避けるべきだ」
「されど、ただ生きることはできぬ、と?」
 広純の問いかけに久脩はどこか苦し気にうなずく。
 面白い、広純は心の中でそう独語した。今までも折を見ては、里で保護した落ち武者などにこの質問をぶつけていたのだが、こんなふうに筋道立てて話す者はいなかった。
 大抵は「それが武家の習い」「さようにいたさねば生きていけぬ」という言葉で済まされていたのだが。
 この瞬間、広純は単に下知を果たすための同行人以上の興味を久脩に抱いた。
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