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「伏勢をつけている、案じることはない」
 なにを考えているのか分からない声音で広純は告げた。しかし、久脩は単純に安堵することはできない。
 ことさらに手勢を隠すということは――敵の攻撃を誘っているのではないか、そんなふうにも取れる。単に備えるなら、一塊になって移動してもいいはずだ。そうすれば、襲う側も人数によっては二の足を踏むはずだった。
 そんなことを久脩が考えていると、広純がなにかに機敏に反応する。かすかに顔を動かし、目線を間道の先へと向けた。
「いかがなされた」「ことさらに騒がぬよう、奸(かまり)が伏せている」
 不安になってたずねる。広純はあくまで無表情に答えた。奸、の単語に久脩の心の臓が締め上げられる。
「案じることはない、忍びの類ではない」
「なにゆえ、姿を見せぬ伏奸(ふせかまり)の正体を推察できる?」
「気配が漏れすぎている」
 淡々としゃべる広純の口調に多少、久脩は心が落ちつくのを感じた。とっつきづらさをこれまでは感じていたが、こういうときは安心できる。
 なにしろ、ひそかに先祖からつたわっている兵法を修めてはいるが実戦経験がない。殺気などを感知する能力など皆無に近かった。そういう面で頼りになるのは広純の鋭いであろう感覚だけだ。
 しばらく進むと、道の脇から無数の人影が湧いて出てきた。久脩と広純は同時に足を止めた。この瞬間、後者がつぶやくのを久脩は確かに耳にしている。
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