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 前久の意図は、大友家の注意を分断する、というところにある。筑前の、大友の力の及びにくい場所に入ったため忍びの監視が途絶えたが向後はふたたびつくことになるだろう、それをかく乱しようというのだ。
 が、ふつうに考えれば分かる。こちを陽動に使っただけではないか――ということを。
 織田信長と親しくし、五摂家筆頭近衛家の当主である近衛前久にはさすがに手を出しづらい。しかし、公家といってもさして官位の高くない土御門家などさほどの、いや一切の躊躇いはないはずだ。
「なんだ?」
 恨みがましさがつい横の広純に向いたのだがすぐに察知される。広純は無表情にこちらに視線を据えていた。
「敵が襲ってきたときに貴殿だけで防ぎきれるのだろうか」
 さすがに恨み言を彼に向ける気にもなれずもうひとつの懸念を口にする。確かに久脩が襲われたときに助けてはくれたが、ここは鎮西、敵の本拠地だ。大勢の人間を動かせば土地の武家の細作に気づかれかねない状況とは違う。下手をすると、多数の忍びに襲われるということになりかねない。
 す、と広純が手を上げた。その動作に久脩は一瞬びくりとなる。矜持を傷つけられてこちらをひっぱたくつもりかと思ったのだ。だが、広純の行動は予想から外れる。口笛を鳴らした。とたん、片方の山の森の中から甲高い音が返ってくる。
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