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 前関白近衛前久だけでなく、久脩もまた武士に歓待されている。
 戦国乱世、明日も知れぬ身にとってはあの安倍晴明の子孫の訪問は、確かな未来を見通すいい機会と映るようで頻りに占うように求められるのだ。
 実際、出陣の是非を占いの吉兆などで決める例は戦後時代においては枚挙にいとまがない。
 行きはまだいい、適当なことを言っても即座にその場で露見する訳ではない。だが問題は帰路だ。もし、戦が起こる、小競り合い、病などで占った相手が死んでしまえばその縁者に「よくも偽りをもうしたなッ」などと詰め寄られる、最悪の場合は手討ちにされる可能性も心配される。
 その不安を前久に訴えたのだが、
「なに、そのときは怨霊のせいにいたし、それを祓ってやって礼金でも受け取ればよいのだ」
 などと言われる始末だった。
 よく考えれば、慎重に物事を深く吟味する人間であれば、公家の身で上杉謙信のもとで関東経営に当たるなどという行為に走るはずもない。
「お加減でも優れないか?」
 寄騎である地侍が横に腰をおろして話しかけてきた。
「ここまでの長旅は初めてで少しくたびれた次第で」
「我ら武家はともかく、公家の仁には鎮西は遠すぎるやもしれませぬな」
 久脩の返答に、人の善い顔をした中年の武士は気さくに応じる。
 殺伐としたところ、荒っぽいところのない雰囲気の相手に久脩は少し安堵した。
 が、次の瞬間、「かような仁でも軍立場に立てば人を斬るのだ」という思いが心に浮かんだ。
 とたん、自分が忍びを手にかけた瞬間のことが甦ってくる。
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