19 / 158
19
しおりを挟む
前関白近衛前久だけでなく、久脩もまた武士に歓待されている。
戦国乱世、明日も知れぬ身にとってはあの安倍晴明の子孫の訪問は、確かな未来を見通すいい機会と映るようで頻りに占うように求められるのだ。
実際、出陣の是非を占いの吉兆などで決める例は戦後時代においては枚挙にいとまがない。
行きはまだいい、適当なことを言っても即座にその場で露見する訳ではない。だが問題は帰路だ。もし、戦が起こる、小競り合い、病などで占った相手が死んでしまえばその縁者に「よくも偽りをもうしたなッ」などと詰め寄られる、最悪の場合は手討ちにされる可能性も心配される。
その不安を前久に訴えたのだが、
「なに、そのときは怨霊のせいにいたし、それを祓ってやって礼金でも受け取ればよいのだ」
などと言われる始末だった。
よく考えれば、慎重に物事を深く吟味する人間であれば、公家の身で上杉謙信のもとで関東経営に当たるなどという行為に走るはずもない。
「お加減でも優れないか?」
寄騎である地侍が横に腰をおろして話しかけてきた。
「ここまでの長旅は初めてで少しくたびれた次第で」
「我ら武家はともかく、公家の仁には鎮西は遠すぎるやもしれませぬな」
久脩の返答に、人の善い顔をした中年の武士は気さくに応じる。
殺伐としたところ、荒っぽいところのない雰囲気の相手に久脩は少し安堵した。
が、次の瞬間、「かような仁でも軍立場に立てば人を斬るのだ」という思いが心に浮かんだ。
とたん、自分が忍びを手にかけた瞬間のことが甦ってくる。
戦国乱世、明日も知れぬ身にとってはあの安倍晴明の子孫の訪問は、確かな未来を見通すいい機会と映るようで頻りに占うように求められるのだ。
実際、出陣の是非を占いの吉兆などで決める例は戦後時代においては枚挙にいとまがない。
行きはまだいい、適当なことを言っても即座にその場で露見する訳ではない。だが問題は帰路だ。もし、戦が起こる、小競り合い、病などで占った相手が死んでしまえばその縁者に「よくも偽りをもうしたなッ」などと詰め寄られる、最悪の場合は手討ちにされる可能性も心配される。
その不安を前久に訴えたのだが、
「なに、そのときは怨霊のせいにいたし、それを祓ってやって礼金でも受け取ればよいのだ」
などと言われる始末だった。
よく考えれば、慎重に物事を深く吟味する人間であれば、公家の身で上杉謙信のもとで関東経営に当たるなどという行為に走るはずもない。
「お加減でも優れないか?」
寄騎である地侍が横に腰をおろして話しかけてきた。
「ここまでの長旅は初めてで少しくたびれた次第で」
「我ら武家はともかく、公家の仁には鎮西は遠すぎるやもしれませぬな」
久脩の返答に、人の善い顔をした中年の武士は気さくに応じる。
殺伐としたところ、荒っぽいところのない雰囲気の相手に久脩は少し安堵した。
が、次の瞬間、「かような仁でも軍立場に立てば人を斬るのだ」という思いが心に浮かんだ。
とたん、自分が忍びを手にかけた瞬間のことが甦ってくる。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
主従の契り
しおビスケット
歴史・時代
時は戦国。天下の覇権を求め、幾多の武将がしのぎを削った時代。
京で小料理屋を母や弟と切り盛りしながら平和に暮らしていた吉乃。
ところが、城で武将に仕える事に…!
あさきゆめみし
八神真哉
歴史・時代
山賊に襲われた、わけありの美貌の姫君。
それを助ける正体不明の若き男。
その法力に敵う者なしと謳われる、鬼の法師、酒呑童子。
三者が交わるとき、封印された過去と十種神宝が蘇る。
毎週金曜日更新
款冬姫恋草子 ~鬼神が愛す、唯一の白き花~
ささゆき細雪
歴史・時代
鬼神と名乗る武将・木曽義仲 × 彼の正室になったワケあり姫君
悲劇的な運命を、愛のちからで切り開く!
ときは平安末期、京都。
親しくなるとそのひとは死んでしまう――そんな鬼に呪われた姫君としておそれられていた少女を見初めたのは、自ら「鬼神」と名乗る男、木曽義仲だった。
彼にさらわれるように幽閉されていた邸を抜けた彼女は彼から新たに「小子(ちいさこ)」という名前をもらうが、その名を呼んでいいのは義仲ただひとり。
仲間たちからは款冬姫と呼ばれるように。
大切にされているのは理解できる。
けれど、なぜ義仲はそこまでして自分を求めるの?
おまけに、反逆者として追われている身の上だった?
これもまた、小子の持つ呪いのせい?
戸惑いながらも小さき姫君は呪いの真相に挑んでいく。
恋しい義仲とその仲間たちに見守られながら。
これは、鬼神とおそれられた木曽義仲に愛された呪われた姫君が、ふたりで絶望の先にあるしあわせを手にいれるまでの物語。
匂款冬(においかんとう、ヘリオトロープ)の花言葉は「献身的な愛」
鬼神にとっての唯一の白き花である少女との運命的な恋を、楽しんでいただけると幸いです。
飛翔英雄伝《三國志異聞奇譚》〜蒼天に誓う絆〜
銀星 慧
歴史・時代
約1800年前に描かれた、皆さんご存知『三國志』
新たな設定と創作キャラクターたちによって紡ぎ出す、全く新しい『三國志』が今始まります!
《あらすじ》
曹家の次女、麗蘭(れいらん)は、幼い頃から活発で勇敢な性格だった。
同じ年頃の少年、奉先(ほうせん)は、そんな麗蘭の従者であり護衛として育ち、麗蘭の右腕としていつも付き従っていた。
成長した二人は、近くの邑で大蛇が邑人を襲い、若い娘がその生贄として捧げられると言う話を知り、娘を助ける為に一計を謀るが…
『三國志』最大の悪役であり、裏切り者の呂布奉先。彼はなぜ「裏切り者」人生を歩む事になったのか?!
その謎が、遂に明かされる…!
※こちらの作品は、「小説家になろう」で公開していた作品内容を、新たに編集して掲載しています。
異・雨月
筑前助広
歴史・時代
幕末。泰平の世を築いた江戸幕府の屋台骨が揺らぎだした頃、怡土藩中老の三男として生まれた谷原睦之介は、誰にも言えぬ恋に身を焦がしながら鬱屈した日々を過ごしていた。未来のない恋。先の見えた将来。何も変わらず、このまま世の中は当たり前のように続くと思っていたのだが――。
<本作は、小説家になろう・カクヨムに連載したものを、加筆修正し掲載しています>
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名とは一切関係ありません。
※この物語は、「巷説江戸演義」と題した筑前筑後オリジナル作品企画の作品群です。舞台は江戸時代ですが、オリジナル解釈の江戸時代ですので、史実とは違う部分も多数ございますので、どうぞご注意ください。また、作中には実際の地名が登場しますが、実在のものとは違いますので、併せてご注意ください。
水野勝成 居候報恩記
尾方佐羽
歴史・時代
⭐タイトルを替えました。
⭐『福山ご城下開端の記』もよろしくお願いします。
⭐福山城さま令和の大普請、完成おめでとうございます。
⭐2020年1月21日、5月4日に福山市の『福山城築城400年』Facebookでご紹介いただきました。https://m.facebook.com/fukuyama400/
備後福山藩初代藩主、水野勝成が若い頃放浪を重ねたあと、備中(現在の岡山県)の片隅で居候をすることになるお話です。一番鑓しかしたくない、天下無双の暴れ者が、備中の片隅で居候した末に見つけたものは何だったのでしょうか。
→本編は完結、関連の話題を適宜更新。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる