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「戯れに目を通しただけのことでございます」
「されど、将棋の勝負に生きておったではないか」
 慌てて言葉をかさねる久脩に、前久は「またまた謙遜を」とばかりに言いつのる。
 確かに久脩は陰陽道の書に紛れて倉に眠っていた兵法書を読み漁り、さらには遁甲の術を極めてはいた。だが、過剰に期待を寄せられても困る。所詮は知識の上でのことだ。
「やはり、そなたは頼りになるのぉ、合力を願って正解であった」
 勝手に合点して二度三度と彼は満足げにうなずいた。
 まだ鎮西にすら達していないが、既に先が思いやられ久脩は逃げ出したい気分になっている。

   三

 さらに数日後、久脩たちは鎮西へと渡っていた。
 九州へたどりついたところで夕刻を迎えていたので、筑前の武家のもとに宿を求めた。場所は大友の支配する土地だが、家中は必ずしもまとまっていない。一度は主家に鉾を向けた大友家家臣のもとに泊まったのだ。
 大友と織田は誼を通じており、かつ大友家は朝廷に友好的な態度を取っている。表向きは不自然なところのない訪問だった。
 ただ、久脩の気持ちは冴えない。肥後人吉が近づいてきたことでいよいよ肩にかかる重圧は確かな重みをもって襲ってきている。さらに、侍の家に泊まるたびに酒宴でもてなされるのにうんざりしていた。
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