信長、秀吉に勝った陰陽師――五色が描く世界の果て(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 酒宴がお開きになり床がのべられた。褥の上で、疲れた、と久脩は力のない声で独語する。
 日中に明かされた衝撃の事実、そしてその結果生まれた“どうにかしなければ”という心理的負担ゆえの武士への話の聞き取り、そういったものがかさなって武士でいうならさしづめ一戦(ひといくさ)終えたような心地がしていた。
「やるではないか」
 そこに、声もかけずに前久が姿を現す。礼儀をわきまえない行動に久脩は半眼になって彼を見やった。が、当人は意に介する様子はない。
「やはり、午(ひる)の言葉は謙遜であったか」
「さにありませぬ。相手がこちらを警戒していなかったがゆえ、多少、こちの業前が通じただけのことでございます」
 久脩の返答に、本当に期待していたらしく前久が子どものようにわかりやすい落胆の色を浮かべた。が、すぐに表情が変わる。
「それにしても、そなたは将棋の腕のほうもなかなかのようだの」
「まあ、蔵に紛れ込んでいた兵法書にも目を通しておりましたゆえ」
 感心する前久に、油断して久脩は言わなくてもいいことを告げてしまった。将棋の腕が云々というのは、酒宴の席で話していた武士がよほどの将棋好きらしく「将棋は指せるか」と聞くので多少はと答えたところ意気揚揚と持ち出してきて勝負をすることになったのだ。相手に花を持たせるためにわざとらしくない程度にわざと負けたのだがそれを前久は見抜いたらしい。
「ほう、兵法書」
 前久の顔が輝き声が弾んだ。
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