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「殿下、過信されても困ります」「なにを謙遜しておる」
顔を歪める久脩に、前久は無邪気な笑みで応じた。
それに謙遜ではございませぬ、と強い語調で久脩はこたえる。
やっと自分が過剰な期待を寄せていたことを悟ったらしく前久の表情が変わった。さようか、とつぶやいて彼は盆の首に手をやる。が、程なくして、
「まあ、いたしかたない」
とあっけらかんとした口調で前久は言い放った。久脩は眉をひそめる。
「どちらにしろ、織田の御屋形様に成就させると請け負うてしもうたのだ、今さら投げ出せぬ」
「それで方策は?」
久脩は不安を隠し切れない声でたずねた。次の瞬間、
「まあ、どうにかなろう」
予感は的中した。前久の満面の笑みを前に卒倒したい気分になる。
● ● ●
その日の夜、土地を治める武将の屋敷に久脩と前久は宿をとっていた。
実質的な力を失えど、それでも武士の京(みやこ)、公家の文化への憧れは強い。そのため、一芸を持った者を中心に、公家は地方で歓迎されることも多かった。
ここもそんな武家のひとつで、大きな部屋で酒宴が開かれている。朝の家中の談合から酒を飲み出すのが武士の習いだ、とにかくなにかあればすぐに飲めや歌えの宴が開かれることになる。
内心、辟易しながらむさ苦しい男たちの陽気な笑い声を聞いていた。
久脩はあまり酒に強くない。救いといえるのは、軟弱な公家が相手、と思ってか武士たちがどうもこちらに対して多少手加減している気配があることだ。
顔を歪める久脩に、前久は無邪気な笑みで応じた。
それに謙遜ではございませぬ、と強い語調で久脩はこたえる。
やっと自分が過剰な期待を寄せていたことを悟ったらしく前久の表情が変わった。さようか、とつぶやいて彼は盆の首に手をやる。が、程なくして、
「まあ、いたしかたない」
とあっけらかんとした口調で前久は言い放った。久脩は眉をひそめる。
「どちらにしろ、織田の御屋形様に成就させると請け負うてしもうたのだ、今さら投げ出せぬ」
「それで方策は?」
久脩は不安を隠し切れない声でたずねた。次の瞬間、
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● ● ●
その日の夜、土地を治める武将の屋敷に久脩と前久は宿をとっていた。
実質的な力を失えど、それでも武士の京(みやこ)、公家の文化への憧れは強い。そのため、一芸を持った者を中心に、公家は地方で歓迎されることも多かった。
ここもそんな武家のひとつで、大きな部屋で酒宴が開かれている。朝の家中の談合から酒を飲み出すのが武士の習いだ、とにかくなにかあればすぐに飲めや歌えの宴が開かれることになる。
内心、辟易しながらむさ苦しい男たちの陽気な笑い声を聞いていた。
久脩はあまり酒に強くない。救いといえるのは、軟弱な公家が相手、と思ってか武士たちがどうもこちらに対して多少手加減している気配があることだ。
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