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「『それはそちが思案することだ』?」
なにかおかしなことを言ったか、そんな顔で前久は答える。
久脩はこのどこかすっとぼけた前関白に対し激しい眩暈をおぼえた。
「なにゆえに、当然のごとくこちが思案する仕儀となっているのでございます」
ただ、黙っていても事態は好転しない、前久に疲れた声で理由を問いただす。とたん、前久が意味ありげな顔をした。
「知っておるぞ、そちの家が遣う“まことの”陰陽道の業のことを」
告げられた言葉に、久脩はますます苦い気持ちになる。
陰陽道というのは言ってしまえば、嘘、偽り、まやかしだ。本当に、霊力の類が存在するのなら、未来を予知して陰陽師の家が他の公家とともに没落することはなかっただろう。
ただ、なんの技能も持ち合わせていない訳ではない。
存在しない霊障をとり除き、未来を占うのに必要はものはなにか?
結局、それは相手の心を“推量する”ことに尽きる。そうすることで、依頼者の憂鬱を言い当てて減じさせ、相手の悩みに該当しそうな答えを用意できるというものだ。そういった技術を積み上げていった、経験則の蓄積こそが前久の言うまことの陰陽道、のちの世でいう“心理戦”の技術だった。
しかしもちろんのこと、それは万能ではない。
なにかおかしなことを言ったか、そんな顔で前久は答える。
久脩はこのどこかすっとぼけた前関白に対し激しい眩暈をおぼえた。
「なにゆえに、当然のごとくこちが思案する仕儀となっているのでございます」
ただ、黙っていても事態は好転しない、前久に疲れた声で理由を問いただす。とたん、前久が意味ありげな顔をした。
「知っておるぞ、そちの家が遣う“まことの”陰陽道の業のことを」
告げられた言葉に、久脩はますます苦い気持ちになる。
陰陽道というのは言ってしまえば、嘘、偽り、まやかしだ。本当に、霊力の類が存在するのなら、未来を予知して陰陽師の家が他の公家とともに没落することはなかっただろう。
ただ、なんの技能も持ち合わせていない訳ではない。
存在しない霊障をとり除き、未来を占うのに必要はものはなにか?
結局、それは相手の心を“推量する”ことに尽きる。そうすることで、依頼者の憂鬱を言い当てて減じさせ、相手の悩みに該当しそうな答えを用意できるというものだ。そういった技術を積み上げていった、経験則の蓄積こそが前久の言うまことの陰陽道、のちの世でいう“心理戦”の技術だった。
しかしもちろんのこと、それは万能ではない。
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