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「こちに忍びに狙われる心当たりなどありませぬ、あるとすれば」
「そうじゃの、こちにかかわったためであろうの」
久脩が険しい視線を向けるが、前久は飄然として受け流す。
「いったい、いずかたの者でございます」
「大友家の忍びやもしれぬな」
っ、問いかけにあっけなく前久が答えたことに久脩はひやりとなった。こういうときに秘密を明かすということは、相手を消す腹づもりか、明かした者が仲間であるかに決まっている。
前久の態度からして、おそらくは後者だ。が、久脩がそれ以上話すのを止めてくれと告げる前に、
「こちはの、織田の御屋形様に肥後の相良と薩摩の島津とのとりなしを頼まれておっての」
どう考えても秘事であろうせりふを口にする。その目には確信犯の輝きが宿っていた。
ますます久脩の怖気立つ感覚は強まる。
「お待ちくだされ、こちは聞きとうございませぬ」
「遅い」血の気を引かせる久脩に前久はいたずらをよろこぶ童(わらべ)のような笑みを見せた。
おのれッ、久脩はとっさに小太刀で斬り捨てたい衝動に駆られる。
次の瞬間、脳裏に忍びを殺したときの感触や臭い、光景が甦ってきた。とたん、胃の腑に違和感が生じとっさに口を押さえて体をくの字に折る。
「いかがした?」
さすがに前久も顔色を変えた。根は悪い人間ではないのだ。だが、天性の厄介者でもある。
しばし、久脩は荒い呼吸をくり返した。そして、
「忍びを斬った折のことを思い出した次第でございます」
ありのままに告げる。
「そうじゃの、こちにかかわったためであろうの」
久脩が険しい視線を向けるが、前久は飄然として受け流す。
「いったい、いずかたの者でございます」
「大友家の忍びやもしれぬな」
っ、問いかけにあっけなく前久が答えたことに久脩はひやりとなった。こういうときに秘密を明かすということは、相手を消す腹づもりか、明かした者が仲間であるかに決まっている。
前久の態度からして、おそらくは後者だ。が、久脩がそれ以上話すのを止めてくれと告げる前に、
「こちはの、織田の御屋形様に肥後の相良と薩摩の島津とのとりなしを頼まれておっての」
どう考えても秘事であろうせりふを口にする。その目には確信犯の輝きが宿っていた。
ますます久脩の怖気立つ感覚は強まる。
「お待ちくだされ、こちは聞きとうございませぬ」
「遅い」血の気を引かせる久脩に前久はいたずらをよろこぶ童(わらべ)のような笑みを見せた。
おのれッ、久脩はとっさに小太刀で斬り捨てたい衝動に駆られる。
次の瞬間、脳裏に忍びを殺したときの感触や臭い、光景が甦ってきた。とたん、胃の腑に違和感が生じとっさに口を押さえて体をくの字に折る。
「いかがした?」
さすがに前久も顔色を変えた。根は悪い人間ではないのだ。だが、天性の厄介者でもある。
しばし、久脩は荒い呼吸をくり返した。そして、
「忍びを斬った折のことを思い出した次第でございます」
ありのままに告げる。
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