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「何奴、こちを土御門家の者と屋敷と知っての狼藉かッ」
とっさに誰何するが、渋柿色の忍び装束に身を包んだ賊は声をあげることなく肉薄してきた。
 しかも、背後に二人目、三人目がつづいている。
 電光石火、先頭の忍びが腰に帯びていた忍刀を抜き放つや一閃した。
 早(はや)――久脩は小太刀の一本を抜きぬけている。その動きは相手の予測を超えていたのだろう、覆面から覗く目が見開かれる。
 同時に首筋を久脩の一撃が裂いていた。脱力、忍びがくり出した一撃がこちらの身を裂く寸前で勢いを失った。剣尖は着物を撫でるだけに終わる、きちんと刀勢がなければ刃物で布地を裂くのは実はむずかしいことだ。
 次の瞬間、久脩のほおを“なにか”が濡らす。鉄錆に似た濃厚な臭いがあたりにただよった。これらの正体は忍びが首から噴いた血潮だ。
 とたん、久脩はみずからの胃の腑が蠕動するのを感じる。それをこらえようとして思わず力んでしまった。そこへ迅影と化した二の手が迫る。武術の動きで重要な脱力のできていない久脩は対処が間に合わない。
 銀光一閃、忍びの放った一撃が宙を走るのを凝視することしかできなかった。
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