直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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 あれは、確か……――と三蔵は追憶の手をのばし、必死に必要な記憶をつかみとろうとする。

 ふいに脳裡に、「『釣り野伏(のぶ)せ』で巧みに大友を破った島津義弘――」という言葉がひらめいた。

 この声は、と彼女はさらに記憶をたどる。
(そうだ、倭寇の頭格(かしら)の――)
 言葉だ、と三蔵は思い出した。
――釣り野伏せは島津家が得意とした戦法だ。戦術そのものは単純で、まず軍勢を三手から四手に分け、先手が進出して敵勢と合戦を行う一方、ふた組は地勢を利用して伏兵となり、四手に分けた場合は、残る一手は後方に布陣し、浮き備え(予備兵力)となる一方、敵勢を呼び込む餌となる。
 先手は事実上の主力と呼べるだけの兵力を持ち、前進して敵勢と熾烈に戦う。しばらくは互角に戦うが、やがて押されたように後退し、間もなく敗走に移っていく。
 それまで必死に戦っていた島津勢が、力尽きて崩れたと見た敵勢は、当然ながら追撃に移る。
 敵の戦列が伸び切ったころ、両側に配置されていた伏せ備え、伏兵が群がり立って側背を衝き、同時に逃げていた先手も逆転して、混乱する敵勢を包囲殲滅する。
 ……それらの倭寇の頭格の説明が脳裡によみがえった。
 とたん、三蔵は全身が総毛立つ。産毛までも逆立った。
「殿、これは敵の計略でございます!」
 意識するより先に、その言葉が口をついて出ている。
 その声に、百武賢兼を含め士卒たちが驚いた表情でこちらを見やった。
「――なにをいうておる、三蔵」
 力丸が大口を開けて笑う。
(笑っている場合かッ!)
 内心罵りながらも、三蔵は対手を無視して賢兼に近寄った。
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