108 / 115
107
しおりを挟む
あれは、確か……――と三蔵は追憶の手をのばし、必死に必要な記憶をつかみとろうとする。
ふいに脳裡に、「『釣り野伏(のぶ)せ』で巧みに大友を破った島津義弘――」という言葉がひらめいた。
この声は、と彼女はさらに記憶をたどる。
(そうだ、倭寇の頭格(かしら)の――)
言葉だ、と三蔵は思い出した。
――釣り野伏せは島津家が得意とした戦法だ。戦術そのものは単純で、まず軍勢を三手から四手に分け、先手が進出して敵勢と合戦を行う一方、ふた組は地勢を利用して伏兵となり、四手に分けた場合は、残る一手は後方に布陣し、浮き備え(予備兵力)となる一方、敵勢を呼び込む餌となる。
先手は事実上の主力と呼べるだけの兵力を持ち、前進して敵勢と熾烈に戦う。しばらくは互角に戦うが、やがて押されたように後退し、間もなく敗走に移っていく。
それまで必死に戦っていた島津勢が、力尽きて崩れたと見た敵勢は、当然ながら追撃に移る。
敵の戦列が伸び切ったころ、両側に配置されていた伏せ備え、伏兵が群がり立って側背を衝き、同時に逃げていた先手も逆転して、混乱する敵勢を包囲殲滅する。
……それらの倭寇の頭格の説明が脳裡によみがえった。
とたん、三蔵は全身が総毛立つ。産毛までも逆立った。
「殿、これは敵の計略でございます!」
意識するより先に、その言葉が口をついて出ている。
その声に、百武賢兼を含め士卒たちが驚いた表情でこちらを見やった。
「――なにをいうておる、三蔵」
力丸が大口を開けて笑う。
(笑っている場合かッ!)
内心罵りながらも、三蔵は対手を無視して賢兼に近寄った。
ふいに脳裡に、「『釣り野伏(のぶ)せ』で巧みに大友を破った島津義弘――」という言葉がひらめいた。
この声は、と彼女はさらに記憶をたどる。
(そうだ、倭寇の頭格(かしら)の――)
言葉だ、と三蔵は思い出した。
――釣り野伏せは島津家が得意とした戦法だ。戦術そのものは単純で、まず軍勢を三手から四手に分け、先手が進出して敵勢と合戦を行う一方、ふた組は地勢を利用して伏兵となり、四手に分けた場合は、残る一手は後方に布陣し、浮き備え(予備兵力)となる一方、敵勢を呼び込む餌となる。
先手は事実上の主力と呼べるだけの兵力を持ち、前進して敵勢と熾烈に戦う。しばらくは互角に戦うが、やがて押されたように後退し、間もなく敗走に移っていく。
それまで必死に戦っていた島津勢が、力尽きて崩れたと見た敵勢は、当然ながら追撃に移る。
敵の戦列が伸び切ったころ、両側に配置されていた伏せ備え、伏兵が群がり立って側背を衝き、同時に逃げていた先手も逆転して、混乱する敵勢を包囲殲滅する。
……それらの倭寇の頭格の説明が脳裡によみがえった。
とたん、三蔵は全身が総毛立つ。産毛までも逆立った。
「殿、これは敵の計略でございます!」
意識するより先に、その言葉が口をついて出ている。
その声に、百武賢兼を含め士卒たちが驚いた表情でこちらを見やった。
「――なにをいうておる、三蔵」
力丸が大口を開けて笑う。
(笑っている場合かッ!)
内心罵りながらも、三蔵は対手を無視して賢兼に近寄った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

渡世人飛脚旅(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)
牛馬走
歴史・時代
(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)水呑百姓の平太は、体の不自由な祖母を養いながら、未来に希望を持てずに生きていた。平太は、賭場で無宿(浪人)を鮮やかに斃す。その折、親分に渡世人飛脚に誘われる。渡世人飛脚とは、あちこちを歩き回る渡世人を利用した闇の運送業のことを云う――

切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)暦道を司る賀茂の裔として生まれ、暦を独自に研究していた勘解由小路在昌(かげゆこうじあきまさ)。彼は現在(いま)の暦に対し不満を抱き、新たな知識を求めて耶蘇教へ入信するなどしていた。だが、些細なことから法華宗門と諍いを起こし、京を出奔しなければならなくなる。この折、知己となっていた織田信長、彼に仕える透波に助けられた。その後、耶蘇教が根を張る豊後へと向かう――

平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品) とある権力者が死に瀕し、富士の山に眠っているという不死の薬を求める。巡り巡って、薬の探索の役目が主人の藤原忠平を通して将門へと下される。そんな彼のもとに朝廷は、朝廷との共存の道を選んだ山の民の一派から人材を派遣する。冬山に挑む将門たち。麓で狼に襲われ、さらに山を登っていると吹雪が行く手を阻む――
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。

【架空戦記】蒲生の忠
糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。
明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。
その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。
両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。
一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。
だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。
かくなる上は、戦うより他に道はなし。
信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる