直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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 龍造寺が進軍した当時の島原半島は沼沢湿田が散在し、三会(みえ)と島原の間にはその「沖田」を突っ切って中央を畦道(あぜみち)(畷道(なわてみち))が通っている。
 一方、島津方の軍兵の数は、それまでに高来郡に展開したのが一五〇〇程度、家久が率いたのが三〇〇〇、合戦直前に伊集院忠棟(ただむね)が一〇〇〇を引き連れ到着している。
 龍造寺方が軍勢を三分して進んだため、島津軍主力が守る戦線中央部では「五州二島の太守、隆信の本隊も圧倒的といえるほど数的優位を保つことができなかった。

 ――先鋒の軍勢が、敵勢がもうけた塁壁を視界に収める位置にたどりつく。島津・有馬連合軍は島原城の北方森岳(もりたけ)城と西方の丸山(まるやま)(森岳城の出城)の間に塁壁を築き島津軍が担当、森岳城と海岸までの範囲に有馬軍が展開していた。塁壁は木柵に刈りとった麦束を厚くかけ並べたもので防弾幕として有効だ。
 このとき、龍造寺方の軍勢には三〇〇〇ないし四〇〇〇丁の鉄炮があり、一〇〇〇丁単位で運用していた。
 ――轟くような喊声(かんせい)があがった。龍造寺軍は鉄炮を発しつつ、塁壁に接近した。その音は、まるで雷が驟雨(しゅうう)のごとく降りそそいでいるようだ。
 対する島津軍の主力は塁壁の外に腹ばうようにして鉄炮を避け、次いで突撃してくる龍造寺軍と白兵戦を展開する。無数の刀槍がきらめき、戦場を彩るように血が幾度も噴いた。怒声、喚(わめ)き声、悲鳴が競い合うように入り乱れて飛び交う。
 島津軍は奮闘する――が、数で勝る龍造寺方の前に、塁壁内への後退を余儀なくされた。
 しかし、島津軍もさるもの、塁壁にとりついた龍造寺の軍兵を自慢の鉄炮の腕で次々と撃ち殺していく。銃丸の威力は凄まじく、腕や手足に当たるとその先が千切れ飛ぶのだ。この攻撃の前に龍造寺勢は大損害をこうむる……退(ひ)いた彼らを追って、今度は島津方が突出する――が、数的優位を持つ敵勢を前に、塁壁内に押し込まれてしまった。
 津波がぶつかりあうような壮絶な光景だ――そして、波しぶきの代わりに人の命が散る。
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