直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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「――その儀は、お断り申し上げたはず」
 三蔵は対手を刺激しないよう心がけながらもはっきりと告げる。
 それを耳にした師の口もとが、ふっ、とゆるんだ。
「強情なところは変わらぬようだな、三蔵」
 再会してはじめて、親しさを感じさせる言葉を口にする。
 すっ、となにか合図をするように彼は片腕をあげた――それに応え、廊下の陰からひとりの武士が姿を現した。
 月光があらわにしたその姿は――
「なっ」「おおっ?」
 悟空と八戒が驚きの声をもらす。
 ほかの面々にしても、三蔵たちは驚愕を禁じ得なかった。
「初めて――顔を合わせるな、息子よ」
 悟浄と似た顔立ちの壮年の武士がてれくさそうな笑みを浮かべる。対する悟浄は、顔をうつむけていて表情がうかがえない……
 盲目の八卦見の占いが、またも当たった形だ――信じられなかった。
「八戒の父と金角・銀角の父はもはやこの世の者ではないが、ほかの者の父は探せばみつかるかもしれぬ――どうが、父と手をとりあって武士(もののふ)として名をあげてみぬか?」
「会う日を楽しみにしていたぞ、悟浄――」
 甚助が父と子の再会の仲介の意図を明らかにし、悟浄の父が明るく告げた。
 返答は――刃風一颯、喉への突きだ。悟浄は憎々しげな表情で月牙鏟をふるう。
「ガ、ふッ――」
 ザックリと気管と動脈を裂かれた悟浄の父が、瞠目しながらその場に倒れた。失血を埋め合わせようと心臓の鼓動が早くなるが、大量の血が流れ出しているために意味がない。残された血液に酸素を送り込むために呼吸亢進が起きる――が、それも長くつづかず喘ぐような吐息を何度かもらし、胸と肩を一度持ち上げたかと思うと痙攣に襲われた。そして、息絶える……
 敵も味方も含め、悟浄以外の者は茫然としていた。
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