直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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「御屋形様の配下の乱波からの情報で、その子供は“二本の小刀を遣う”そうだ」
 三蔵のつづけた言葉に、悟空が、くっ、と苦悶を感じさせる吐息をもらす。
「御屋形様は、我らに一揆を煽動する者たちの始末を任せようと考えているらしい」
「……っ」
 このせりふに、八戒が何かをいいかけ首を左右にふった。
「――いたしかたあるまい」
 ふいに口を開いた悟浄のせりふが、雷鳴のように鋭く耳朶を打つ。
 三蔵は思わず肩越しに彼を見やった。
「直刀(チータオ)の誓い、忘れたわけではないだろう?」
 彼はその表情を翳らせながらも、強い意思の宿った眼でこちらを見返す。
「俺たちは散々、周囲に翻弄されて生きていた。別に生まれたくて倭寇の子供に生まれたわけでもないのに虐げられた――」
 告げながら、彼は室内にいる面々に順に視線を向けた。
「俺たちは自侭(じまま)に生きるためにこの国へと渡ってきたはずだ。誰かになにか強いられて生きるのはうんざりのはずだ。それだというのに、誘いを断れば刃を向けてきた師父に今さら従えるか?」
 そこまで云い終えると、悟浄は各々の答えを待つように口をつぐむ。
 ……――答えは「否」だ。
 師の誘いを断った瞬間から、本当はその解答が導き出されていた。
 ただ、紅孩児の存在が師父と真っ向からぶつかることを躊躇(ためら)わせる……
 だが、ここで主君の命令を断れば、家臣としての地位を失うことになる。それでは、甚助の誘いを断った意味がない。
 そして、覚悟を決めずに戦いに臨めば、己が死ぬことになる。
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