直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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 だが、それでも着実に時間は流れている――寅(とら)の刻、士分の者が起き出す時刻に至る。
 そして、人の気配が屋敷の戸口の方から届いた。
 ――床を蹴るようにして三蔵が立ち上がった。その音に、金角と銀角が少し飛び上がって眼を覚ます。悟浄も軽く瞠目していた。
 そんな三人を無視して、三蔵は玄関へと急いだ――
 まなじりを吊り上げた彼女が突然姿を現したことに、悟空と八戒が眼を丸くする。
「話がある」
 それ以上言葉をつづけると罵声になってしまう、自分の怒りの理不尽さはわかっていたからそこでせりふを切って背を向けた。
「おい、どうした三蔵?」「話ってどういうことなんだ?」
 ふたりの疑問を置き去りにして、三蔵は元の部屋に戻り腰をおろす。
 そこに慌てて追ってきた悟空と八戒が追いつき、とりあえず座った。
「――肥後において一揆を煽動する動きがある」
 言葉を選ぶ心の余裕がなく、三蔵はとにかく話を切り出す。
 それを、ふたりは怪訝な顔で聞く。今、聞かなければならないのか? という不満もうかがえた。
(お前たちも少しは煩悶しろッ――)
 その顔つきが余計に三蔵の怒りを煽る。
「その一味に紅孩児らしき子供の姿があった、と賢兼様が仰せられた」
「なにッ!?」
「紅孩児が……」
 悟空が意味もなく思わず立ち上がりそうになり、八戒は逆に体から力が抜けて顔色が悪くなった。
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