直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

文字の大きさ
上 下
87 / 115

87

しおりを挟む
 と、答えあぐねていると、
「心配せずともよい。わしが仕えているのは斜陽の大友家ではない」
 沈黙の意味を読み違えてらしく、甚助はそんな言葉を重ねた。
「――島津家だ。主君である島津義久殿は、この九州を手中に収めることも夢ではない大器の持ち主。衰亡の心配はない」
 ニヤリと彼は翳りのある笑みを浮かべる。“衰亡”という言葉に己の過去を重ねているのかもしれない。
 ……そんな師の様子を三蔵は痛ましく思う。
「できませぬ」
 が、三蔵が口にした答えはそんな師父を拒絶する言葉だった。
 その返答に対し甚助は特に反応を示さない――やや眼を細めただけだ。
「龍造寺家の当主がいかなる人物か、陪臣に過ぎぬそれがしにはわかりませぬ。ただ、少なくとも主である百武賢兼殿とその室の円久尼様は仕えるに値する人物」
 三蔵は後ろめたさを感じながらも、きっぱりと告げる。
「……」
 そこまで聞いても、甚助はほぼ無反応だった。
「――お、俺は」
 突如、紅孩児が声を張り上げる。
 それに驚き、三蔵をはじめ仲間たちは彼に視線を向けた。
「師父についていく!」
 いつも、三蔵たちについてまわるだけで意思決定にかかわってこなかった彼が、よりによってこの場で自分の意見を主張する。
 ……ただ、それは必ずしも紅孩児自身の意思だとはいえない。
 彼は三蔵たちとは五つも歳が離れている。だから甚助と出会った当時、まだまだ父親という存在を欲し、その依存度は高かった。そのときに抱いた、親へのそれに近い親愛の情が恐らく紅孩児を“師父に従う”という行動に走らせている。
 とっさに、三蔵は言葉が出てこなかった。
 仲間とは一心同体、そう思っていただけに裏切られたという思い、衝撃は強い――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)暦道を司る賀茂の裔として生まれ、暦を独自に研究していた勘解由小路在昌(かげゆこうじあきまさ)。彼は現在(いま)の暦に対し不満を抱き、新たな知識を求めて耶蘇教へ入信するなどしていた。だが、些細なことから法華宗門と諍いを起こし、京を出奔しなければならなくなる。この折、知己となっていた織田信長、彼に仕える透波に助けられた。その後、耶蘇教が根を張る豊後へと向かう――

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

渡世人飛脚旅(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走
歴史・時代
(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)水呑百姓の平太は、体の不自由な祖母を養いながら、未来に希望を持てずに生きていた。平太は、賭場で無宿(浪人)を鮮やかに斃す。その折、親分に渡世人飛脚に誘われる。渡世人飛脚とは、あちこちを歩き回る渡世人を利用した闇の運送業のことを云う――

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品) とある権力者が死に瀕し、富士の山に眠っているという不死の薬を求める。巡り巡って、薬の探索の役目が主人の藤原忠平を通して将門へと下される。そんな彼のもとに朝廷は、朝廷との共存の道を選んだ山の民の一派から人材を派遣する。冬山に挑む将門たち。麓で狼に襲われ、さらに山を登っていると吹雪が行く手を阻む――

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品) 世は戦国乱世、豊後を侵した毛利元就対抗するためにひそかに立ち上がった者がいた。それは司祭(パードレ)アルメイダ。元商人の彼は日頃からその手腕を用いて焔硝の調達などによって豊後大友家に貢献していた。そんなアルメイダは、大内家を滅ぼし切支丹の布教の火を消した毛利が九州に進出することは許容できない。ために、元毛利家の忍びである切支丹ロレンソ了斎を、彼がもと忍びであることを知っているという弱みを握っていることを盾に協力を強引に約束させた――

処理中です...