直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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 と、答えあぐねていると、
「心配せずともよい。わしが仕えているのは斜陽の大友家ではない」
 沈黙の意味を読み違えてらしく、甚助はそんな言葉を重ねた。
「――島津家だ。主君である島津義久殿は、この九州を手中に収めることも夢ではない大器の持ち主。衰亡の心配はない」
 ニヤリと彼は翳りのある笑みを浮かべる。“衰亡”という言葉に己の過去を重ねているのかもしれない。
 ……そんな師の様子を三蔵は痛ましく思う。
「できませぬ」
 が、三蔵が口にした答えはそんな師父を拒絶する言葉だった。
 その返答に対し甚助は特に反応を示さない――やや眼を細めただけだ。
「龍造寺家の当主がいかなる人物か、陪臣に過ぎぬそれがしにはわかりませぬ。ただ、少なくとも主である百武賢兼殿とその室の円久尼様は仕えるに値する人物」
 三蔵は後ろめたさを感じながらも、きっぱりと告げる。
「……」
 そこまで聞いても、甚助はほぼ無反応だった。
「――お、俺は」
 突如、紅孩児が声を張り上げる。
 それに驚き、三蔵をはじめ仲間たちは彼に視線を向けた。
「師父についていく!」
 いつも、三蔵たちについてまわるだけで意思決定にかかわってこなかった彼が、よりによってこの場で自分の意見を主張する。
 ……ただ、それは必ずしも紅孩児自身の意思だとはいえない。
 彼は三蔵たちとは五つも歳が離れている。だから甚助と出会った当時、まだまだ父親という存在を欲し、その依存度は高かった。そのときに抱いた、親へのそれに近い親愛の情が恐らく紅孩児を“師父に従う”という行動に走らせている。
 とっさに、三蔵は言葉が出てこなかった。
 仲間とは一心同体、そう思っていただけに裏切られたという思い、衝撃は強い――
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