直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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「案内(あない)に参った」
 乱波は感情の欠落した声で意外なことをいう。
「案内?」
 捕捉されても逃げないということはなにか目的があるのだろうと思っていたが、これは予想外だった。
 っ――が、脳裡にひらめくものがある。
「有地甚助(ありちじんすけ)殿のもとへ、おぬしたちを案内する……」
 質問は受け付けない、そんな沈黙を乱波はせりふに後につづけた。
 ……紅孩児が戸惑った眼でこちらを見やる。
 が、とっさに結論をのべることができない――三蔵自身の心も揺れていた。
「紅孩児、警戒を頼む」
 と告げ、三蔵は室内の仲間をふり返る。
 紅孩児以外の面々も困惑が表情に浮かんでいた。
 だから、三蔵は正直に告げることにする――
「罠の可能性もある。されど、俺は甚助がかつてなにゆえ姿を消したのか、なにゆえ敵として姿を現したのか知りたい」
 その言葉に仲間たちも首を縦にふった。
「俺たちは、いつだってお前の判断に従う」
 悟浄が真剣な顔つきで告げる。
「へ、罠だったとしても突破すりゃいい」
「失敗しても、みながいればなんとかなる」
 悟空も八戒も、微笑を口の端に浮かべながらうなずいてみせた。
 これらの言葉に背中を押され、三蔵は庭の方に向き直る。
「案内しろ」
 戦を前にしたかのような厳しい声で云い放った――
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