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それでも、上段、中段からの面への一撃を浪人二人は咄嗟に繰り出す。
が、それは予測していた攻撃だ。動転した状況では、人は突きや籠手を狙う余裕は失われる。
螺旋の軌道を描きながら、入り身した悟浄と八戒の手が対手の腕をあさっての方向に逸らした――予期していた一撃だったためにそれは容易だった。直後、それぞれの攻撃が急所に決まった。
……浪人たちが絶命して倒れた瞬間、周囲に沈黙が落ちる。そして、
「すげぇ」「強(つえ)ぇな、あのお侍様たち!」「おい、あれが“例の”――」
などと称賛の声が周囲の人間の間に広がった。
「――行くぞ」
それにやや照れながら、三蔵は悟浄と八戒に向き直る。
「ありがとうな」
三蔵は悟浄に向かって礼を言った。彼が“己のために”怒ってくれたのは分かっている。
「俺たちの仲だ」気にするな、と悟浄は笑みを浮かべた。
と、事が終わったところで、
「おい、どうしたお前らぁ?」「なんか、あったのかぁ?」
と甘い物を口にしながら、悟空と紅孩児が姿を現す。何とも暢気な表情だ。
苦戦しなかったとはいえ、人が生きるか死ぬかという状況にあったというのに――
「遅いぞ、悟空!」と怒鳴りつけ、三蔵は彼を殴りつけた。
「痛(いた)ぁっ !お前、何しやがる!」
悟空が眼を剥いて驚く――紅孩児も、「うわ、怖い!」そんな顔でこちらを見る。
「甘んじて受けておけ、悟空」
「確かに、お前たちは来るのが遅かった」
と悟浄と八戒は苦笑を浮かべて三蔵に賛同を示した。
が、それは予測していた攻撃だ。動転した状況では、人は突きや籠手を狙う余裕は失われる。
螺旋の軌道を描きながら、入り身した悟浄と八戒の手が対手の腕をあさっての方向に逸らした――予期していた一撃だったためにそれは容易だった。直後、それぞれの攻撃が急所に決まった。
……浪人たちが絶命して倒れた瞬間、周囲に沈黙が落ちる。そして、
「すげぇ」「強(つえ)ぇな、あのお侍様たち!」「おい、あれが“例の”――」
などと称賛の声が周囲の人間の間に広がった。
「――行くぞ」
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と甘い物を口にしながら、悟空と紅孩児が姿を現す。何とも暢気な表情だ。
苦戦しなかったとはいえ、人が生きるか死ぬかという状況にあったというのに――
「遅いぞ、悟空!」と怒鳴りつけ、三蔵は彼を殴りつけた。
「痛(いた)ぁっ !お前、何しやがる!」
悟空が眼を剥いて驚く――紅孩児も、「うわ、怖い!」そんな顔でこちらを見る。
「甘んじて受けておけ、悟空」
「確かに、お前たちは来るのが遅かった」
と悟浄と八戒は苦笑を浮かべて三蔵に賛同を示した。
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