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できる……――決して勝てない対手ではないが油断すれば斬られる、そういう力量の男だ。
(紅孩児、油断するよな――)
声に出す訳にもいかないため、ただ心の中で念じる。
――浪人が間合いを詰め、剣尖一閃、上段からの一撃を繰り出した。
対する紅孩児は素早く体を開き、木製の小太刀二本で斬撃を受け止める。直後、電撃的迅さで前進、浪人の腕を斬る。
「――それまで!」下口が勝負ありと判じた。
「なっ――」浪人の表情が驚愕に歪む。次いで、悔しげな顔になり、そして不満を露わにした。
「う、腕を一本斬られても戦うことはできる!」
「痛みで隙ができたところを斬られてお主は死んでおる」
これに対し、下口は冷静な声で応じる。
「――っ」悔しげな顔をしながらも、浪人は反論することができなかった。下口の視線に促され渋々退く。
「今のは念流の合掌という技だな。日の本で武士(もののふ)として生きる存念なら、覚えておくといい」
無表情に戦いを見据えながら、三蔵の横の大部がそんな言葉を口にした。
そんな彼を、三蔵はちらりと横目でうかがう――だが、その表情から胸の内を読み取ることはできない。
「御教授、忝い」三蔵は仕方なく礼の言葉を述べる。
だが、大部はそれに特に何か意思表示をすることはなかった。
――そして、二人目の浪人が前に出る。勿論、悟空も。後者は喜々とした、如何にも嬉しげな顔つきだ。
一方、対手は朋輩の敗北の悔しさに凶暴な表情を浮かべている。
(紅孩児、油断するよな――)
声に出す訳にもいかないため、ただ心の中で念じる。
――浪人が間合いを詰め、剣尖一閃、上段からの一撃を繰り出した。
対する紅孩児は素早く体を開き、木製の小太刀二本で斬撃を受け止める。直後、電撃的迅さで前進、浪人の腕を斬る。
「――それまで!」下口が勝負ありと判じた。
「なっ――」浪人の表情が驚愕に歪む。次いで、悔しげな顔になり、そして不満を露わにした。
「う、腕を一本斬られても戦うことはできる!」
「痛みで隙ができたところを斬られてお主は死んでおる」
これに対し、下口は冷静な声で応じる。
「――っ」悔しげな顔をしながらも、浪人は反論することができなかった。下口の視線に促され渋々退く。
「今のは念流の合掌という技だな。日の本で武士(もののふ)として生きる存念なら、覚えておくといい」
無表情に戦いを見据えながら、三蔵の横の大部がそんな言葉を口にした。
そんな彼を、三蔵はちらりと横目でうかがう――だが、その表情から胸の内を読み取ることはできない。
「御教授、忝い」三蔵は仕方なく礼の言葉を述べる。
だが、大部はそれに特に何か意思表示をすることはなかった。
――そして、二人目の浪人が前に出る。勿論、悟空も。後者は喜々とした、如何にも嬉しげな顔つきだ。
一方、対手は朋輩の敗北の悔しさに凶暴な表情を浮かべている。
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