直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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   二

 ――ある日、三蔵たちの姿は城の庭にあった。
 以前に家臣たちと御前試合で戦ったときと同じ装い。ただし、違う点がある。それは、他の家臣たちは平素の装(なり)だということだ。
 そして、彼らの代わりに庭に三蔵たちと対峙する形で四人の浪人態の男たちが佇んでいる。
 こちらが若輩者であることを侮ってか、連中の口もとには薄い笑みが浮かんでいた。彼らは一様に痩せた狼のような、荒んだ空気を纏っている。
 精々、嗤(わら)っていろ――そんな彼らを、三蔵は胸の内で嗤笑する。
 今から三蔵たちは仕官を求める彼らと対決することになっていた。といっても、人数の関係上で試合に出るのは紅孩児、悟空、悟浄、八戒という面子だ。紅孩児を選んだところに三蔵のしたたかさがある――子供を対手に油断しない者はそうそういない、そういう計算が働いている。
 ――と、三蔵の隣に大部安兵衛が移動してきた。
「どうせ見るのなら近くで、と思ってな」
 こちらが何かを聞く前に、浪人たちに視線を据えたまま彼は理由を述べる。
 特にそれに反応を示さず、三蔵は大部に移動させた視線を浪人たちに戻した。己らを嫌っている、そう思っていた人物に話しかけられ内心少し困惑している。
 そうこうしているうちに、御前試合が始まった――
 一人目の浪人と紅孩児が向かい合う。
「両者、かかりませい!」家臣の下口の声で戦いの始まりが告げられた。
 紅孩児の対手は、対手が子供であることに怒りを感じる矜持すらないらしく、これは幸運とばかりにあからさまな余裕の笑みを浮かべる――無構えのまま、紅孩児との距離を詰める。
 が、それが単なる油断ゆえの行動でないことを傍(はた)で見ていた三蔵は見抜いた。
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